これらの文章は、2002年から2003年の岩手日報コラムに連載されたものです。
今でもとても面白く読めましたので、再掲載しました。 ぜひ、ご一読ください。
第27回 毎日の「安心」支える - テレケア岩手医科大学第二内科・循環器医療センター アメリカの著名な経営学者であるP・F・ドラッガーは「ネクスト・ソサエティ」の中で「IT(情報技術)が医療に果たす役割は大きく、医療制度の改革につながる」と述べています。 具体的には、ITの活用によって地方の中小病院でも、300キロ以上離れた大病院と同じサービスを提供できた例を挙げています。 一方、ドラッガーは同書の中で「病院の市場はプラスマイナス8キロ以内であり、誰もが自分の母親を近くの病院に入院させたがる」とも述べています。 この医療サービスと距離についての二つの記述は、医療の情報活用場面の違い、すなわち専門家同士の場合と、患者さんあるいは住民と医療専門家との情報交換があるということを示しています。 専門家同士では、知りたい分野や用語、思考過程、基礎知識もある程度統一されており、画像や文章に集約されたもので本質的な情報交換が可能です。 一方、住民と専門家との間では、知りたい分野や用語、思考過程、何よりも医学についての基礎知識が異なっており、実際に会って情報を交換することでしか解決できない問題が多いのです。 ですから住民にとっては、自分の住む近くに信頼できる医療機関を持つことが一番重要です。 ITを活用して離れた場所で診断や指示などの医療行為をおこなう、いわゆる遠隔医療もサービスの対象により二つに分かれます。 一つは 「テレメディシン」 と呼ばれ、病理診断やCTや磁気共鳴画像装置(MRI)といった画像診断の専門家が不足している地方病院と専門家のいる都市部の病院を結んで行われています。 もう一つは「テレケア」と呼ばれ、保健・医療機関と家庭を通信で結び、血圧や心電図などの情報を送り、健康管理のサービスを提供するものです。 あまり知られてはいませんが、テレケアは全国の自治体を中心に既に約100カ所の地域に導入されています。しかし、テレケアは専門家不足を補うという役割が明確なテレメディシンに比べ、その意味づけは必ずしも十分とはいえませんでした。 私どもは日本のテレケアの草分けである釜石市のせいてつ記念病院でのテレケア(うらら)のユーザーを対象に、その意義をさぐるアンケート調査をしました。 約300人のユーザーのほとんどは、テレケアの意義を「自分の健康づくりに役立て、安心して暮らすためのもの」と考えていました。 このようなテレケアの心理的効果は、血圧の安定などにも効果がありました。興味深かったのは、自分にはテレケアの効果があると考える人は、日常会話の中でそのデータなどを家族や他の人に話すことが多かったということでした。 テレケアは健康や疾病予防への知的理解を高める方法であり、なおかつコミュニケーションの活性化の道具としても有用であるということです。 テレケアは住民が医師や保健師さんと一層緊密な関係を築き、健康増進のために役立つと同時に、高齢化の進む地域の孤独対策にも有用であり、元気でいきいきとした地域づくりにも役立つ方法と期待されます。 さらにITで市民生活を豊かにするシステムとして、日本の産業の活性化にも期待されています。 第27回 掲載:2003年3月25日 当ページは岩手日報社の許可を得て掲載しています。 |