これらの文章は、2002年から2003年の岩手日報コラムに連載されたものです。
今でもとても面白く読めましたので、再掲載しました。 ぜひ、ご一読ください。
第5回 心臓の悪友岩手医科大学第二内科 《爆発的に増加する糖尿病》一昔前、といっても10年ほど前のことですが、日本人は糖尿病になり難い人種と考えられていました。その当時の糖尿病患者さんの愛読書は、東北大学名誉教授の後藤先生が書かれた 「100万人のための糖尿病教室」 でした。しかし、その後の全国調査で、40歳以上の日本人の10人に1人が糖尿病であることが明らかになりました。今や糖尿病人口は約700万人、予備軍を合わせるとその数は1,400万人といわれています。まさしく爆発的な増加です。日本人は少し太っただけでインスリンの分泌が悪くなり、また、インスリンが効きにくい体質になることが分かってきました。食生活の変化、特に脂肪の摂取量が増加したことと、車の普及などにより運動不足になったことが大きな原因と考えられています。両親が糖尿病の場合、生まれた子供の2人に1人が、将来、糖尿病になると言われています。あなたやあなたの家族は大丈夫ですか? 《糖尿病は血管病》血糖が高くても、ほとんど症状がありません。しかし、長い間には確実に 「糖尿病性合併症」 が襲ってきます。糖尿病は目や腎臓の細い血管から心臓や脳の太い血管まで、全身のあらゆる血管を侵します。音もなく忍び寄る 「糖尿病合併症」 は、これらの血管障害が原因です。糖尿病はただ血糖が高くなるだけの単純な病気ではなく、恐ろしい血管病なのです。だいぶ以前から失明の第1の原因は糖尿病性網膜症ですし、数年前から透析になる第1の原因は糖尿病性腎症です。糖尿病に気づかなかったり、糖尿病をほっておいたために、高齢になってから様々な合併症に苦しむ人が増えています。健康で楽しい老後の生活のためには、糖尿病を見逃さず、また、見つかったら放置しないことです。 《糖尿病の死因第1位は動脈硬化》欧米では、糖尿病患者さんの死因のほとんどが心筋梗塞症などの心臓病です。日本でも、心臓死する糖尿病患者さんが増加しています。現在、日本糖尿病学会が1991年から2000年の10年間の糖尿病患者さんの死因を全国で調査しています。近々、発表される予定ですが、心臓死が第1の原因になると予想されています。なぜ糖尿病で動脈硬化になりやすいのかは、いまだに良く分かっていません。糖尿病患者さんは、高血圧症や高脂血症をあわせ持つことが多く、それが動脈硬化を進みやすくしていると考えられています。糖尿病だけでなく高血圧や高脂血症を同時にコントロールすることで動脈硬化が予防できる可能性が欧米の研究で明らかになっています。あきらめずに地道に努力することが大切です。 《心臓病と糖尿病》われわれのところに、心臓の動脈硬化症 (狭心症や心筋梗塞症) で入院した患者さんの25%が糖尿病で、24%が糖尿病予備軍でした。心臓病患者さんに、糖尿病が多いことに驚きました。心臓病と糖尿病は中の良い悪友といったところです。また、退院した心筋梗塞症の患者さんの調査では、糖尿病があると糖尿病のない患者さんに比べて、死亡率が約2.5倍高いことが判明しました。働き者で大切な心臓と長く楽しく付き合うためには、糖尿病にならないように予防し、糖尿病になった時には、悪友関係を絶つ必要があります。そのためには、まず毎日の運動と食事を見なおしましょう。 第5回 掲載:2002年10月8日 当ページは岩手日報社の許可を得て掲載しています。 |