これらの文章は、2002年から2003年の岩手日報コラムに連載されたものです。
今でもとても面白く読めましたので、再掲載しました。 ぜひ、ご一読ください。
第10回 心臓検診の目的岩手医科大学第二内科・循環器医療センター 《心臓検診の目的》世界保健機構(WHO)は、2001年もわが国が世界の最長寿国であることを報告しています。02年版「国民衛生の動向」(厚生統計協会)によると、01年のわが国の心臓病による死亡は、死亡例7人におよそ1人(15.3%)の割合です。高齢化が進むわが国では今後、心臓病が増加すると予想されています。 心臓病は長い無症状の時期を経て症状を引き起こし、突然死することの多い病気でもあります。医学の進歩は心臓病と上手に付き合うことさえできれば、日常生活を普通に送ることを可能とさせています。 それでは私たちは心臓病による障害や予知しない突然死の危険をどのようにしたら減らせるのでしょうか。それにはまず心臓病が隠れているかどうかを知り、心臓病を持つリスクを知ることが大切です。 そのために心臓検診があります。心臓検診はいうまでもなく、早斯に心臓病を見つけ、その後の生活への影響を少なくすることを最も大きな目標としています。 また心臓病予備軍を見つけ出し、発病を予防することも大きな使命としています。 《年齢によって異なる隠れている心臓病》心臓はお母さんのおなかにいる時から年齢を加えて高齢となっても休まず動き続けています。 この心臓に発生しやすい異常は、年齢によって異なります。胎児期や幼少時には生まれながらの疾患として先天性心腰病があります。 小学生から中学生、高校生、青年期までは見逃された先天性心疾患のほかに突然死の原因となる心筋症(心筋の障害)、川崎病(溶連菌感染後に発症する冠動脈の障害)、特殊な不整脈(WPW症候群やQT延長症候群など)が大きな問題となりやすい疾病です。 その後には、動脈硬化の進行とともに心筋梗塞や狭心症などの冠動脈疾患が重大な疾患となりやすいのです。 《心臓検診について知っておきたいこと》弁膜症や先天性心臓病といった心臓の構造に異常が存在するものは別として、体調の悪さをまったく自覚しない状況では、多くの心臓病では医師の前に座って診察を受けるか、ベッド上にじっとして受ける検査だけでは異常な兆候を示さないことが多いのです。 このため、先天性心臓病や弁膜症は比較的精度良く検診されますが、一見正常と考えられる成人の約2−5%に存在する自覚症状のない冠動脈疾患の検診精度は、残念ながら不十分といわざるを得ないのが現状です。 このことは突然死を予防するための検査としては重大な欠点となります。しかし、このような冠動脈疾患を確率的に発生させやすい因子(冠危険因子といい、高血圧、高脂血症、糖尿病、喫煙などがあります)が明らかにされており、この因子をスクリーニングする検診が広く行われています(表)。 この方法は個人の冠動脈硬化の出現しやすさ、さらには発症のしやすさを明らかにして、発症予防に役立てる手段としては優れていますが、残念ながら冠動脈硬化の診断精度は不十分です。それでは現在行われている心臓検診は無駄なのでしょうか? 答えがノーであることは、薬物療法や食事療法、生活改善などによって冠危険因子を改善させると心筋梗塞の発症が減少する事実が物語っています。 最近では診断法の進歩によって受診者の負担が少なく、冠動脈硬化を精度よく診断する検診法が開発されつつあります。これについては次回以降に紹介します。 第10回 掲載:2002年11月12日 当ページは岩手日報社の許可を得て掲載しています。 |