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「心臓と暮らし」タイトル

これらの文章は、2002年から2003年の岩手日報コラムに連載されたものです。
今でもとても面白く読めましたので、再掲載しました。  ぜひ、ご一読ください。



第13回 心臓発作と救急医療『いのちをつなぐ鎖の輪』

岩手医科大学第二内科・循環器医療センター
鈴木 知巳


《心臓発作と急死》

岩手県高度救急センターには、年間120 - 130人の心肺停止例が搬送されてきます。そのうち、内科疾患によるものが2/3あり、その半数近くは急性心筋梗塞症を代表とする“心臓発作”が原因と考えられています。心停止・呼吸停止で運ばれた患者さんは、心臓マッサージや人工呼吸や様々な薬を使って、心肺蘇生術が行われます。

しかし、ほとんどの人がそのまま亡くなってしまいます。現状では、ほんの1割程が一時的に心拍の再開をみますが、最終的に生存退院できる人は全体の数%にすぎません。これまでのわが国の救急医療体制は、搬送の迅速性の確保に最大の整備目標がおかれてきました。しかし、院外で発生した心肺停止例の救命率は欧米の先進地域に遠く及ばず、この分野での対策が大きく遅れていました。

《心室細動と除細動》

世界保健機構(WHO)の調査によると、急性心筋梗塞症の死亡率は約50%と高率で、その半数以上が発症後数時間以内の病院到着前の死亡であることがわかっています。その多くが、心室細動という不整脈による血流の停止が原因であるとされています。この心臓発作の直後に起こる心室細動は、多くの場合直流除細動により通常の心拍動に回復させることが可能です。人間の脳組織は、4分間以上血流が停止すると不可逆的な障害が残ってしまいます。いかに早く除細動を行えるかが重要になります。

救命の鎖

《米国の心臓病救急体制》

米国のシアトルなど、救急医療体制の整備が進んでいる地域からの報告では、院外で発生した心室細動例の2 -4割が救命できることが実証されています。この良好な成績は、パラメディックや救急隊の活躍によるのはもちろんのこと、地域住民自身の参加による救急医療体制が構築されているところによるものです。

アメリカ心臓協会(AHA)は必須の救命救急医療体制を“chain of survivor”(命をつなぐ鎖の輪)と称し、地域住民の医学知識の向上と心肺蘇生法の普及活動を古くから組織的に展開してきました。米国ではさらに2000年、当時のクリントン大統領のかけ声の下に心臓発作による米国市民の死亡率を改善させるために、国を挙げての対策に取り組んでいます。現在では、市街の各所に自動式除細動器を設置し、パラメディックに加えて、最小限の訓練を受けた一般市民に早期除細動を行わせる試みも始まっています。

《今後の課題》

わが国では、91年に救急救命士制度が発足し、救急医療体制の再整備が開始されました。しかし、救命士ができる手技に関する制約も多く、様々な課題が残っています。また、システム整備に地域間格差が生じ、それが拡大しつつあるのも事実です。岩手県では93年度に諸組織が一体となって岩手県心肺蘇生法普及事業推進会議を設立し、県民運動として心肺蘇生法の普及を図るとともに、医学知識の向上に努めています。

心肺蘇生法普及活動はそれだけで救命率の改善に結びつくものではありませんが、救急医療体制確立の根幹をなすものです。今後、普及活動や動機付けのための啓発活動をさらに強化し、電話での蘇生法指導など、新たな対策も必要であるといえます。

 “救命の鎖”のどこか一つが欠けても、あなたやあなたの大切な人を救うことはできないのです。

第13回 掲載:2002年12月3日

当ページは岩手日報社の許可を得て掲載しています。

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