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これらの文章は、2002年から2003年の岩手日報コラムに連載されたものです。
今でもとても面白く読めましたので、再掲載しました。  ぜひ、ご一読ください。



第6回 高コレステロール血症

岩手医科大学第二内科
瀬川 郁夫


《増加する日本人の血中コレステロール》

厚生労働省の調査によれば、日本人男性の4人に1人、女性の3人に1人が、血中総レステロール値220mg/dl以上の高コレステロール血症です。

高コレステロール血症は、国民の栄養状態の向上と食事の欧米化に伴って増加してきており、生活習慣病の代表といえます。しかし、「コレステロールが高め」と言われても、自覚症状がないため、そのまま放置している人が多いのではないでしょうか?

虚血性心疾患が死因の第一位の欧米では、コレステロール値の増加により直線的に虚血性心疾患の発症が増加することが約30年前に明らかにされました。そこでアメリカでは全国民のコレステロール値を低下させる国家プロジェクトが実施されました。

日米の平均血清総コレステロール値の比較

その結果、アメリカ国民の血中総コレステロール平均値は、日本人とはぼ同レベルに低下し、虚血性心疾患による死亡率も低下しました。

《善玉コレステロールと悪玉コレステロール》

コレステロールは人間の細胞膜やホルモンの材料として、なくてはならない大切なものです。

栄養が不足しがちであったつい最近まで、コレステロールを体内にためることが生きていく上で必要でした。飢えることがなくなり、栄養過剰となった現代では、コレステロールの取り過ぎによって、動脈硬化が急激に増加しました。

まさしく高コレステロール血症は現代病です。この現象が欧米で先行し、今、日本で同様のことが起こりかけています。

ご存じのようにコレステロールには血管から余分なコレステロールを肝臓に回収する善玉(HDL)と血液をドロドロにして血管に沈着する悪玉(LDL)があります。

魚の油にはエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHE)などの善玉が多く含まれ、血液をサラサラにします。しかし、最近、日本では魚の消費量が減り、肉の消費量が急増しています。

大切なのはコレステロールの中身なのですが、それがおかしくなっているのです。

《日本人のコレステロールと虚血性心疾患》

1999年に血中コレステロールと虚血性心疾患の関係をみた、日本で初めての大規模な研究 (J−LIT)の結果が島本民らによって発表されました。

それによれば、高コレステロール血症(平均270mg/dl)で薬をのんでいる52,421人の患者さんを6年間、追跡調査した結果、欧米と同様に260mg/dl以上の患者さんでは虚血性心疾患が約4倍多く発症しました。

しかし、虚血惟心疾患を発症するのは一年間に1,000人の患者さんのうち0.91人であり、欧米と比べると十分の一以下でした。

一方、既に虚血性心疾患になった患者さんでは一年間に1,000人中4.45人が再発・悪化し、悪玉LDLが140mg/dl以上、あるいは善玉HDLが40mg/dl以下の患者さんでは2倍以上さらに悪化することが分かりました。

《これからのコレステロール治療》

最近、コレステロールを強力に低下させる薬(スタチン)が広く使われるようになりました。

われわれのところに心筋梗塞症で入院した患者さんの退院後の調査では、入院時に血中コレステロール値が高かった患者さんと、高くなかった患者さんの死亡率には差がありませんでした。これはどういうことを意味しているのでしょう。

退院後に食事に注意し、運動を心掛け、さらに、スタチンをのんだ効果なのでしょうか?

その答えは今のところ明らかではありません。現時点で言えることは、薬にばかり頼らず、栄養の取り過ぎに注意し、良いコレステロールを取ることと運動を心掛けることがもっと大切だということです。

第6回 掲載:2002年10月15日

当ページは岩手日報社の許可を得て掲載しています。

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