AEDを使う心肺蘇生法(CPR)ホームページ
Push,Push,Pushは、皆さんへのメッセージです。 J-PULSEホームページ
「心臓と暮らし」タイトル

これらの文章は、2002年から2003年の岩手日報コラムに連載されたものです。
今でもとても面白く読めましたので、再掲載しました。  ぜひ、ご一読ください。



第17回 これからの心肺蘇生法 一般市民も行える除細動

岩手医科大学第二内科・循環器医療センター
菊地 研


心臓発作による突然死は、日本では年間4 - 5万人と推定されています。交通事故での死亡数が年間1万人を越えると大きく新聞に掲載されますが、それよりもはるかに多いのです。心臓発作により突然に 「いのち」 を失いかねない病気の代表である急性心筋梗塞症でも、病院へ無事にたどり着き、冠動脈疾患集中治療室(CCU)へ入院できれば、死亡率は10%以下なのです。

しかし、先にも書きましたが、急性心筋梗塞症で死亡する人の半数以上は病院へ到着する前のもので、その大部分は心室細動という不整脈が原因で突然に心臓が停止します。その状態で救命救急センターへ運ばれてきた人で、「いのち」 が助かるのは現在のところ5%程度にすぎないのです。

心室細動になると心臓の筋肉がけいれんしてしまうため、心臓はポンプとして血液を送りだせなくなってしまいます。突然に生じる心停止の85%以上が心室細動です。先日急逝された高円宮さまの死因がこれです。

心室細動が発生してから心臓の働きが再開するのが1分遅れる毎に 「いのち」 が助かる率は7 - 10%減少します。心室細動の唯一有効な治療法は電気ショック(電気的除細動)ですので、迅速に除細動することが 「いのち」 を救う 「鍵」 となります。

除細動までの時間が救命率を決定的に左右するため、自動体外式除細動器(AED)が登場しました。AEDはノートパソコン程度の大きさで、携帯電話機を使うよりも簡単で、小学生でも操作できます。

AED

救助者が自ら行う操作は、1) 電源を入れる、2) 電極パッドを患者さんの胸に貼る、3) 自動解析ボタンを押す、4) 除細動ボタンを押す、の4つだけです。操作手順は音声と液晶ディスプレイが順次知らせてくれます。心電図を自動的に読んで電気的除細動が必要かどうか判断してくれます。メンテナンスは不要で、誤作動せず、救助者は医学的知識が無くとも安心して安全に使用できます。

欧米では、警察官、消防士、警備員、航空機客室乗務員など医療従事者でない職業人が、数時間の講習を受けてAEDを使用しています。また、公共施設で心臓が突然停止した人へ、その場に居合わせた一般市民が消火器のように設置してあるAEDを使用しています。

これまでの救急システムでは不可能であった5分以内の除細動を可能にした地区から、驚異的に高い救命率(40 - 60%)が報告されています。さらに、米国食品医薬品局(FDA)が自宅用AEDを承認したことで、突然心停止の4分の3が生じる自宅にAEDを常備でき、家族による5分以内の除細動が実現可能となりました。

日本では、国際線航空旅客機にAEDを搭載し、医師が同乗していないときには客室乗務員が除細動を行えるようになりました。近い将来、救急救命士も自らの判断で除細動を行えることになりそうです。しかし、それでもまだまだ欧米には遠く及ばない状況なのです。

盛岡広域消防本部での年間火災発生件数は約120件で、心臓発作による突然死の推定発生件数とほぼ等しいのです。万が一、火災が発生した時にはその場に居合わせた人が消火器で消火します。消火器を使用するのに許可を得たり、消火器を使用できる人を限定したりはしていないはずです。火災を心臓発作による突然死に、消火器をAEDに置き換えてみて想像してみてください。

市民がAEDを用いた心肺蘇生法を行える救命救急システムを、地域の社会資源の一環として構築できると、「地域社会そのものが究極のCCU」 となり、多数の人たちが後遺症を残さずに社会復帰できるようになります。

第17回 掲載:2003年1月7日

当ページは岩手日報社の許可を得て掲載しています。

前 前     ページの先頭へ ページトップに戻る       次 次