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「心臓と暮らし」タイトル

これらの文章は、2002年から2003年の岩手日報コラムに連載されたものです。
今でもとても面白く読めましたので、再掲載しました。  ぜひ、ご一読ください。



第19回 拡張型心筋症は ”火事の焼け跡”

岩手医科大学第二内科・循環器医療センター
佐藤 衛


《拡張型心筋症とは》

拡張型心筋症は心臓の収縮力が低下し、心臓が大きくなる病気です。この病気は、ウイルス感染、アルコール多飲、高血圧、産褥(出産)などの原因が特定できるものから、原因が特定できないものまでさまざまあります。

人口10万人に対し少なくとも10人以上いると考えられています。拡張型心筋症の多くは、心不全(心臓のポンプ機能が破たんした状態)、不整脈、塞栓症(心室の壁に付着した血液の塊が脳・肺・腎臓などへ飛んでいく病気)、突然死を起こし発症します。

1980年代の5年生存率(発症後5年間生存できる確率)は約50%と予後が非常に惑く、「心臓のガン」と呼ばれていました。

しかし、最近の循環器検診の普及によって無症状(約30%は無症状といわれています)のうちに発見できるようになりました。また、治療法の進歩により90年代には5年生存率は76%まで上がりました。

拡張型心筋症は焼け跡

拡張型心筋症の原因はいろいろ考えられます。最近の研究では、ウイルス感染がその原因として注目されています。

私たちの研究では、エンテロウイルス遺伝子とそのタンパクが、約30 - 40%の拡張型心筋症の心臓で検出され、エンテロウイルスが増殖してことが証明されています。欧米の研究でも拡張型心筋症の約半数で、このウイルスが増殖していると報告されています。

エンテロウイルスは心臓を好んで感染するウイルスです。このウイルスは長期にわたり心筋細胞内に潜むと、心臓の機能を奪っていく因子(神経体液因子と呼ばれます)を出します。さらに高血圧、アルコール、心筋虚血などの増悪因子が加わり、心臓のポンプ機能が 失われます。

拡張型心筋症は、ウイルス感染とその他の増悪因子が加わることによって心臓が ”火事の焼け跡” となっていることを意味します。

治療は整地と家の再建

拡張型心筋症の治療は ”焼け跡の整地” と ”家の再建” が基本です。

拡張型心筋症は焼け跡

整地は塩分・水分制限や利尿薬(排尿を促進する薬)、強心薬(心臓の収縮力を強くする薬)を投与し、心不全などでポンプ機能が失われた心臓を治します。

致死的な不整脈を認める場合には、抗不整脈薬の投与や埋め込み型除細動器を体内に埋め込みます。

再建はアンジオテンシン変換酵素阻害薬、ベーター遮断薬などの血管拡張薬や抗アルドステロン薬を投与します。これらの薬は弱った心臓を再構築すると考えられ、何千人もの患者さんに投与した臨床試験(大規模臨床試験といいます)の結果により、その有用性が証明されています。

また塩分・水分制限、禁煙、運動療法により生活習慣を見直していきます。これらの治療により弱った心臓を再建していきます。

それでも再建できない場合は、堕外科的治療によって家を建て直す必要があります。バチスタ手術やドール手術といわれる心臓の形を整える手術により弱った心臓を再建します。

当施設でも数人の患者さんが、この手術で日常生活を送れるようになっています。しかし、これらの治療法が無効果な場合は、心臓移植の適応となります。

心臓移植は欧米では約30年の歴史があり、拡張型心筋症の患者さんに対し一番多く行われています。日本では97年に臓器移植法が施行され、197人の適応患者(2002年現在)のうち16例で心臓移植が行われました。しかし、臓器提供者不足が深刻な問題となっています。

第19回 掲載:2003年1月21日

当ページは岩手日報社の許可を得て掲載しています。

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