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これらの文章は、2002年から2003年の岩手日報コラムに連載されたものです。
今でもとても面白く読めましたので、再掲載しました。  ぜひ、ご一読ください。



第25回 急性肺血栓塞栓症

岩手医科大学第二内科
大平 篤志


[急性肺血栓塞栓症とは]

肺から酸素を取り込んだ血液は心臓から全身(動脈系)に送られます。体内から心臓に戻ってくる血液(静脈血)には酸素が減っていて、再び、心臓から肺に向かう動脈を通って肺に送られます。

静脈内に生じた血栓(血の塊)が、血液の流れに乗って肺動脈まで達し、突然に肺動脈を閉塞する病気が急性肺血栓塞栓症です。原因のほとんどが、下肢の深部静脈血栓症(下肢や骨盤内の深部静脈に生じた血栓症)です。その誘因には、病気や手術前後での長期間の臥床(安静)、高齢、肥満、心不全、妊娠、悪性腫瘍、外傷、脱水ならびに先天性の凝固能異常(血が固まり易い血液異常)などがあります。

急性肺血栓塞栓症は、病気療養中の方はもちろん、健康な方にも突然に発症し、時に発症早期から重篤な経過をきたす血管疾患であり、わが国でも増加しています。

最近、「エコノミークラス症候群」 という言葉が社会的に注目されました。航空機に長時間の搭乗後、突然の呼吸困難やショック状態をきたし、時に突然死に至ることがある病気です。この実態は、長時間の座位(下肢の安静と大腿部での深部静脈の圧迫)が誘因で、下肢に深部静脈血栓症が生じ、歩き出した際に遊離した血栓が肺動脈まで達して本症を起こしたものです。

全身の血液の流れ

[急性肺血栓塞栓症の診断]

閉塞する肺動脈の部位や程度によって、症状はいろいろです。軽症では症状が出ないことがあります。多くは、突然に発症して持続する呼吸困難や胸痛や咳や動悸ならびに冷汗などが現れます。重症になると、失神やショック状態、さらに突然死に至ることもあります。これらの症状は急性心筋梗塞症やうっ血性心不全や急性大動脈解離や肺炎ならびに胸膜炎などの胸部症状とよく似ており、早急な鑑別診断が必要です。また、本症の多くが、下肢深部静脈血栓症から続発するため、下肢に腫脹(浮腫)や疼痛ならびに発赤を生じていることがあります。

自覚症状および胸部X線写真と動脈血液ガス分析検査と超音波検査などから、大よその診断をします。診断の確定には、肺血流シンチグラフィやコンピューター断層法などの画像検査法を用います。診断が付かない場合および重症でカテーテルを用いた血栓溶解療法(肺動脈内に選択的に血栓を溶かす薬を注射する方法)や血栓除去術(血栓を吸引除去したり、細かく砕いて血管を開通させる方法)を前提とした場合には、肺動脈造影を行うことがあります。

[急性肺血栓塞栓症の病状に対応した治療]

本症の原因である深部静脈血栓症への予防対策が大切です。本症の病状に応じ、心肺機能の維持、肺動脈内の血栓除去、および塞栓症の再発防止への対応が重要です。呼吸管理には酸素吸入や人工呼吸器を用います。循環管理には心臓の収縮力を高める薬を使用します。重症の場合には、補助循環法(経皮的心肺補助装置)を用いて、弱った心肺機能を代行させることがあります。肺動脈内の血栓除去には、血栓溶解薬療法(末梢静脈からの点滴投与)や経カテーテル的血栓除去術などを行います。塞栓症の再発防止には、抗凝固療法(血が固まらないようにする薬を投与する方法)を行います。抗凝固療法を行いえない場合や再発を繰り返す場合には、下大静脈(腹部の大きな静脈)にフィルターを挿入(新しい血栓が肺動脈まで達する前に捕捉する方法)することがあります。

[急性肺血栓塞栓症の早期診断と早期治療の必要性]

本症の発症直後からショック状態をきたした場合と早期に再発をきたした場合に、その死亡率は極めて高くなります。本症の生命予後の改善には、迅速かつ的確な診断と早急な治療が必要です。今までにない突然の胸部症状を自覚した際には、症状の程度に関わらず、専門医に相談して下さい。

第25回 掲載:2003年3月11日

当ページは岩手日報社の許可を得て掲載しています。

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