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これらの文章は、2002年から2003年の岩手日報コラムに連載されたものです。
今でもとても面白く読めましたので、再掲載しました。  ぜひ、ご一読ください。



第14回 見落とすと危ない不安定狭心症『早期受診のすすめ』

岩手医科大学第二内科・循環器医療センター
鈴木 知巳


《心臓発作の前兆》

急性心筋梗塞症はそのための急死が多いということが問題の病気です。一刻を争って手当をしなければ、命を落とす可能性があるのです。心筋梗塞症の約1/3は全く前駆症状がなく発症しますが、残りの2/3では何らかの前兆があります。多くは胸痛や前胸部不快感であり、数分でおさまることから数十分間も続くこともあります。安定した狭心症から発症することは少なく、今までなかった胸痛が初めて出現したり、段々と症状が強くなったり、一日に何度も出現するようになります。これが、不安定狭心症と呼ばれるもので、心筋梗塞症に移行しやすい“危ない狭心症”なのです。

搬送されてくる患者さんの多くは、心筋梗塞症になってしまった後に、「あの症状が心臓発作の前兆だったのだ」ということに気がつきます。しかし、心筋梗塞症では約半数の患者さんが亡くなってしまいます。また、心臓の機能低下からその後の心不全や不整脈に悩まされる患者さんも少なくありません。心臓発作を起こしてから“そのこと”に気がついても遅いのです。

不安定狭心症と急性心筋梗塞症および心臓性急死は、一連の流れの中で発症するとの考え方から,これらの病気をまとめて急性冠症候群と呼ぶことがあります。冠動脈内の動脈硬化巣粥腫(プラーク)の崩壊と血栓形成などがその発症に関与していると考えられています。不安定狭心症の時期に入院して治療を開始しておけば、心筋梗塞症への移行を阻止できることが多く、また心臓発作の程度が軽くすむとも考えられています。たとえ心臓発作を起こしたとしても、そのまま死に至ることは少ないのです。

《不安定狭心症の診断》

しかし、不安定狭心症の診断は簡単ではありません。外来受診時には、狭心症としての特徴的な心電図変化は改善していることが多く、血液検査でも特別な異常を示すことは少ないのです。ほとんどは自覚症状で判断されます。主に、症状(胸痛など)の性状や強さ、発作の誘因、持続時間、頻度、随伴する症状などから判断します。また、高血圧症や高脂血症、糖尿病などの冠危険因子の有無や家族歴なども参考になります。

胸痛が20分以上続くものや、冷や汗や吐き気を伴う場合や、安静時や軽い労作での発作の出現などは要注意です。すぐに、専門施設を受診すべきです。かかりつけ医も、少しでも不安定狭心症である可能性を疑った場合は、躊躇せずに専門医にコンサルトするべきです。

まず病院へ

最近では、血清トロポニンといったマーカーの上昇が、微少な心筋傷害を反映するとされ、狭心症患者さんのその後の予後が推測されることから、救急現場では迅速測定キットがよく用いられます。

《まずは受診を》

転ばぬ先の杖かもしれません。当院へ不安定狭心症の疑いで入院した患者さんのうち、実際に冠動脈疾患であった人は、全体の7割程でした。狭心症以外に不整脈や心膜・心筋疾患や弁膜症といった他の心臓病であることもあります。また、重篤な大動脈疾患や肺血管疾患が見つかる場合もあります。その他に、上部消化管疾患や呼吸器疾患、肋骨や胸壁の疾患などのこともあります。

しかし、もし不安定狭心症を見落としていれば、大変な事態に陥るわけですから、少しくらいの過剰な診断があったとしても、まず入院してもらい、鑑別診断を行うことが重要なのです。実際に、不安定狭心症の患者さんを帰宅させてしまい、その後に心肺停止状態で搬送されてきた事例も聞かれます。今までにない胸部症状が初めて出現したなら、「ちょっと様子をみる」のではなく、すぐにかかりつけ医に相談することが大事です。

第14回 掲載:2002年12月10日

当ページは岩手日報社の許可を得て掲載しています。

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