3 早期除細動が救命の「鍵」
最近、マラソンランナーの突然死やプロサッカー選手の突然死などが相次いで報道されています。
というのも、2002年、高円宮さまが急逝され、マスメディアが「心室細動」を大きく取り上げたことで、心臓発作による突然死への関心が高くなってきたからです。
心臓発作による突然死数は、日本では年間4〜5万人と推定されています。
交通事故での死亡数は、「交通戦争」と呼ばれたピーク時の1970年でも1.7万人で、昨年2003年には半減して0.8万人ほどでした。
餅などによる窒息死は、年間約0.7万人ほどです。
餅による窒息死や年間1万人を越える交通事故死はこれまで大きく報道されてきましたが、実際には心臓発作による突然死はそれより7〜8倍も多いのです。
1日当たり100人が心臓発作で突然死しているのです。
日本人を乗せたジャンボジェット機が4日ごとに墜落しているのと同じくらいです。
高円宮さまの死因の報道から、「心室細動」や「電気的除細動」という医学専門用語が一般市民にも浸透しだしています。
その心室細動は、突然生じる心停止の85%以上を占めるとされ、心室細動になった途端、心臓の筋肉はけいれんして、ポンプとして血液を送り出せなくなり、意識を失います。
突然に心停止になってしまうのです。
「いのち」 を助ける治療法は唯一、電気的除細動 (電気ショック) だけなのです。
心室細動が生じると、 「いのち」 が助かる率は1分毎に10%減少していきます (図1)1)。
「心室細動」 の心電図は、はじめのうちは粗い大きな波形だったのが、徐々に細かい小さな波形となっていきます。
やがて数分のうちに直線となって、電気的除細動が効かない 「心静止」 へ移行していきます。
このため、「いのち」が助かる率は、心室細動が生じてから電気的除細動までの時間に決定的に左右されることになります。
数分以内に除細動できれば、救命率は増大し、多数例が後遺症を残さずに社会復帰できるようになります。
「心肺蘇生と救急心血管治療のための国際ガイドライン(ガイドライン2000)」2)では、迅速に除細動することこそが「いのち」を救う「鍵」である、と定めています。
このガイドライン2000では、除細動を行うまでの目標時間を院外では5分以内、院内では3分以内と設定しています。
しかし、日本に限ったことではありませんが、現在の救急システムでは院外での5分以内の除細動は達成不可能です。
一方、その場に居合わせた一般市民が除細動を行えれば、5分以内の除細動が可能になります。
このため、早期除細動には 「一般市民が行う除細動(PAD)」 が必須で、それが医療従事者でない一般市民が行う救命処置 (Basic Life Support; BLS) の一環となるときに救命の鎖の輪がつながります3)。
このときに用いるのがAEDです。