AEDを使う心肺蘇生法(CPR)ホームページ
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心肺停止への治療は、病院到着後に「安全かつ確実にどのように冷やすか」という方法論に移ってきている。でも、わかっていないことも多い。
坂本 今後の心肺停止への治療の問題は、心肺蘇生法をどこまでちゃんと徹底して普及できるかということ、要するにバイスタンダーCPRをいかに増やすかということと、やっぱり、あとは病院到着後にいかに冷やすかということ。この間のAHAでもあったように、「冷やすか冷やさないか」はすでに問題じゃなくて、「安全かつ確実にどのように冷やすか」という方法論に移ってきている。

ただこれも、もともとのHACAスタディだとか、Bernardスタディだとか、要するに今回のガイドライン2005のベースになったデータを見てみると分かるのは、低体温治療群と体温放置群の比較だから、低体温治療群は確かに冷えてるんだけど、対照としての体温放置群はみんな38度とか結構発熱してるんで、だから確かにその放っておいて発熱する患者さんと、その34度以下に24時間冷やした患者さんでは、「冷やした方がアウトカムがいい」というのは統計的に確実に言えるけど、「じゃあ36度を常に保った患者さんと比べても34度以下のほうがいいのか」ということはわかってないし、もちろん「冷やす時間も24時間と48時間、さらに言えば何時間で効果が一番出るのか」っていうこともわかってないから、そういう意味では、結局、今は研究モデルで行ったのと同じ方法で行えば、同じような結果が期待できることはわかってるけど、じゃその方法が最適かということに関してはなんの結論も出てないよね。
菊地 確かに、そうですね。
坂本 それはだから、まだまだこれから検証する必要があるってことだよね。実は、実験では「平温よりもちょっと冷やしたほうが神経細胞の死に方は少ない」って報告されている。動物実験でね、もうわかっているんだ。それはわかってる。

だけど、「低体温療法をしても全体としてどうして良くならないか」っていう原因には、ひとつは「冷やすタイミングが遅れすぎているから」とか、もうひとつはやはり「脳のもともとの障害が強すぎるから」ということで成績に差が出ないっていうこともあるだろうけど、それ以外に「冷やすことによって合併症で死亡するというリスクが、低体温療法のメリットを消している」ということもあり得るわけ。

今の軽度低体温治療に関してはそれ程の合併症をきたさないだろうというのが一般的な考えなんで、そうすると動物実験から考えれば平温よりやっぱりちょっと冷やしたほうがいいかなというのが推測としては一応正しいけど、でも証明されたわけではないと。
菊地 なるほど確かに。方法としては、今回はPCPSを使いますけど、4℃に冷やした細胞外液2リットルを急速に点滴したり、冷たいマット巻いてシーツでぐるぐる巻きにしたり・・・。
坂本 もちろん、だから方法は大きく分ければ体表クーリング、血液クーリングがあって、血液も体外からクーリングする方法と、今アメリカで下大静脈に閉鎖式のコイルを入れて血管の中から直接冷やすというような方法もあったり、あともっと極端な方法は鼻腔の奥に冷たい空気を送って鼻の中で咽頭をラジエーターにするなんて方法もあったり、・・・アイスクリーム食べるときに脳の温度が冷えるのと同じ原理だな。そうすると脳がある程度特異的に冷える。いろいろとやり方としては考案されている。

けれど、・・・今回のPCPSと低体温って結構いろいろ関係はするんだけども、もちろんPCPSを使うと必ず低体温を実現できるんだけども・・・、あくまでも今回の研究では心停止の段階でPCPSを使って蘇生するとどうなるかっていうことを目的にしている。

例えば心拍再開後に循環動態が不安定な人を普通じゃクーリングできないけどPCPS使えばクーリングできるというものに対してPCPSを使う適応がもちろんあるんだけど、それは今回の研究対象とはしていない。だって、もしそれを始めたらもう比較する相手がいっぱいありすぎてきりがなくなるから・・・。
菊地 確かに。
坂本 今回の研究は、あくまでも心拍再開しないものに対してPCPSで心拍を再開させるということになると脳がどうなるかということであって、だから蘇生後も低体温のためにPCPSを使うことに関しては別研究で、やらざるをえない。
菊地 そうなんですね、了解しました。
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シリーズ 「いのちをつなぐ ひとをつなぐ こころをつなぐ」 の第八回目は、帝京大学の坂本哲也先生にご登場いただきました。
 HACAスタディ
(Hypothermia After Cardiac Arrest study groupが行った研究で、ハッカスタディと読みます。Mild Therapeutic Hypothermia to Improve the Neurologic Outcome after Cardiac Arrest NEJM;346,549,2002)
 Bernardスタディ
(バーナードさんが行った研究です Treatment of Comatose Survivors of Out-of-Hospital Cardiac Arrest with Induced Hypothermia  NEJM;346,557,2002)