AEDを使う心肺蘇生法 トップ > いのちをつなぐ 目次 > 第八回 坂本哲也先生 > その4:心停止へPCPSを用いた低体温療法に関しての研究プロトコールが出来上がりました。
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菊地 |
現在、心停止へPCPS を用いた低体温療法に関しての研究も行っていますよね? この間のSAVE-Jへの研究参加施設で打合せしたときの議論
を踏まえて、今、プロトコールを変更しているところですか? |
坂本 |
ええ、ほぼ出来上がりました。獨協医大も参加してくれるとのことなので、これから最終版を送りますから。いや、HPに載せることになるかも・・・。
それで、この間の打合せのときに一番議論になったのが、・・・こちらの認識としてはほとんどうまくいくと考えているんだけど・・・、イニシャルVF を研究対象にするということで、その対象とする症例のなかで2つあって、1つは、PCPS治療群になった施設で、「イニシャルVFの症例でも1回目の電気ショックでAsystoleになってそのままずぅーとAsystoleが続くときには、通常ではPCPSを回していないから、そのプロトコールはちょっと困る」っていう施設がいくつかあった。確かに、そうずっと続くときがたまにある。レフトメインとか広範囲の虚血がひどくて、最初かろうじてVFだったけど、電気ショックを一発かけたらAsystoleになってそのままうんともすんとも言わなくなる。
そんな症例を僕らは研究対象にしてるけど、「そんな一回も脈が戻らずにAsystoleが続いてるような症例は普段PCPS回してないんで・・・」ということらしい。僕らとしては、イニシャルVFであれば、初回ショックの後Asystoleが続いていても119番通報から病院に来るまでが45分以内であれば、そのあと病院に来て15分間ACLSやってだめなら、PCPS治療群だったら、全例PCPSをトライしてほしいというのが、そのプロトコールで、その症例選択でバイアスはかけたくないのさ。
それは、やっぱりイニシャルVFというのは少なくとも最初のショックかける瞬間に心臓は限りなく悪いんかもしれないけど、そのイニシャルリズムがVFだったってことは、頭のほうは蘇生の可能性があるということだから、心臓がいくら悪くてもそれはあとでPCIかなんかで再灌流すると改善する可能性があるんで、それを適応にしてほしいというとこなんです。
結局、最終的な結論としてはもともとのプロトコール通りってことにしたので、PCPS治療群の施設として参加したいということで、もし「うちはPCPSは年間数回は回すけど、そういう何回もVFになったり ROSC になったり繰り返してる症例にやるんで、そのあとずっと一貫してAsystoleみたいな患者さんは『これは蘇生の対象外だからやりません』」っていう施設に関しては、今回は研究協力施設には入っていただかないことにした。
だから、要するに「良いのはやるけど、悪いのはやらない」っていうのはバイアスかかっちゃうから、適応に合致する症例はプロトコールに則って行う方針じゃなきゃいけない。 |
菊地 |
確かに。バイアスの排除は難しいですけど、重要ですものね。 |
坂本 |
あともう1つ。逆に非PCPS群の施設であっても、PCPSでの治療を行わないといけない状況もあるってこと。要するに、これまでのプロトコールでは、イニシャルVFで病院に搬送されて来たときには心拍が再開していなくて15分間のACLSをやって、その15分の時点で心拍再開してなかったら全例研究対象にするということにしてたんだけど、それで一番微妙な場合は、ROSCとVFを繰り返してるような症例で15分の時点でまだVFを繰り返してると、これは普段PCPSを使わない施設でもやっぱり使いたいじゃない。 |
菊地 |
ええ、それはもちろん、使いたいです。 |
坂本 |
だから、この症例の場合は難治性VFで、しかもROSCを繰り返すVFという判断になって今回の研究対象からは除外することにした。だから、PCPSを使わない群の施設でも、その症例については研究対象にしないから、PCPSでの治療を行えるということにした。
だから、ACLSを始めてから15分間の間に1分以上の自己心拍があったものはもう研究対象としないということにした。そういう症例はもうPCPSを使っても使わなくてもアウトカムがいいかもしんないし、PCPSを使いたい施設もかなりあるだろうしということで、それはもう研究対象とはしない。
でも、その間にVFは解除できてPEAになったとしても、あるいは一時的に脈が振れても1分間以上の持続したROSCが得られないような症例に関しては、全例研究対象とすることになる。だから、コントロール群になる施設は、そういうROSCが得られないような症例に関してはPCPSを回さないでほしいと。
もともと普段は回してないんだと思うよ。
今回の研究始めるから急に回したくなるだけで、日常的な臨床現場で考えてればさ、何回か心拍がきちっと戻って2、3分とか5分とか経ったら、またVFになったんだったらPCPSを回そうかって気になるけど、VF解除後にQRS波形だけが出ているけど脈が触れないPEAとか、ほんの10秒ぐらいだけ触れるとか、エピネフリン入れた直後だけ脈が触れるけどまたすぐ触れなくなるような症例は回さないでしょ、普通は。 |
菊地 |
そうですね。回してないですね。 |
坂本 |
だから、最終的に、PCPSを回さないっていう方針の施設と、それを回すっていう方針の施設でこういう患者さんのアウトカムを比較するという研究デザインにしたわけ。介入研究じゃなくて観察研究で行いたいので。
そこで既存の治療方針に大きくバイアスをかけるようなことがあると、インフォームドコンセントとか様々な問題が出てくるので、一応そこはそういう形で研究デザインを組んだつもり。そういうことで最終的な計画書ができ上がっているから、どちらの立場でも比較的参加しやすくなる。
だから、非PCPSで参加するにしても絶対PCPSを回しちゃいけないわけじゃなくて、だって20歳未満はやっていいでしょ、薬物中毒の場合でもやっていいでしょ、それから低体温の場合でもやっていいでしょ、それからそのROSCを繰り返す症例もやっていいでしょ、あとは全部通常通りの治療方針でやってくださいっていうんだから、ほとんど非PCPS群であっても全然問題ないだろうと考えている。
一方のPCPS群の施設はただもう対象になる症例はドンドンやってほしいと。日中はPCPS回すけど夜はやらないというのはやめてほしいと。 |
菊地 |
この研究って、通常の治療を行っているので、すべて保険診療で賄えますよね? |
坂本 |
うん。すべてと言われると、難しいけど・・・。それが長期化しちゃって、例えば2週間とか3週間とかPCPSの人工肺を3本も4本も取り替えて使ったら、きっと切られるけど、最初の24時間とか48時間に関しては、基本的に今の保険診療の範疇で認められた治療になってるんで。 |
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シリーズ 「いのちをつなぐ ひとをつなぐ こころをつなぐ」 の第八回目は、帝京大学の坂本哲也先生にご登場いただきました。
※ PCPS (percutaneous cardiopulmonary support:経皮的心肺補助装置)
※ イニシャルVF :(最初の心電図が心室細動であるという意味)
※ Asystole (心静止 エーシストリーと読みます。)
※ レフトメイン (左冠動脈主幹部梗塞)
※ ROSC (Recovery Of Spontaneous Circulation:自己心拍再開)