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いのちをつなぐ ひとをつなぐ こころをつなぐ

基本的に言えるのは「重症脳疾患への低体温療法は有効であるというエビデンスは確立していない」ということだけ。
菊地 この蘇生後の低体温療法っていうのは、日本が世界にエビデンスを発信できる領域なんですが、日本では最初に頭部疾患でやりましたよね? 日大でしたっけ?
坂本 日大だね。日大の林先生が低体温療法に関して非常にすばらしいデータを出したけど、単独施設だったわけで、他施設では再現性を持って同じアウトカムがなかなか出せなくて、「多施設での研究が必要だろう」ということになった。

それで、厚労科研で山口大学の前川剛志先生が中心になって多施設共同で重症脳障害に対する低体温療法の無作為割り付け臨床研究をやったんだけど、やっぱり命の危険が非常に高い重症患者さんに無作為でやるというんで、インフォームドコンセントを含めてエントリーが難しいんで、残念ながら、統計的な差が出るほどに充分な症例が集まんなかったみたい。

だから、今もずっと続けてるのかな? 厚労科研としては終わったけれども、症例の登録だけは続けているというような状況で・・・。
菊地 もしかして症例登録数が少なくて、良い結果が出なかっただけなんでしょうか? 逆に否定されたのかなって思ったりしていたのですが・・・。
坂本 それはわかんない。だから基本的に言えることは、「いまだにそれは有効であるというエビデンスが確立していない」ということだけ。
菊地 そうなんですか・・・、わかってないんですか・・・。その後、他の地域か施設で研究はなされていないんですか?
坂本 アメリカでNABISH?(NASBISナスビス?)っていう国の機関による無作為抽出多施設研究で、これは結構大規模な前向き研究だったんだけど、それが実は否定的だった。
菊地 えっ? 否定的な結果だったんですか・・・。
坂本 結局、トータルで見るとアウトカムに差がなくて、層別解析するといいところもあるんだけども、反って悪いところもあったりして、結局ダメになっちゃったんだよね。

それもでも色々解析してみると施設ごとにものすごく温度差があって、ある施設は低体温やるとすごくアウトカムがよくなってるんだけど、別の施設は低体温やると反ってアウトカム悪くなるとこがあって、全部を平均すると結局いい結果が出てないと。
菊地 施設間格差が大きいと? 治療・管理のし方に差があると? そういうことなんですか?
坂本 合併症の率だとかね、その対象の背景がどうかとか、様々なバイアスが入っているんだと思うけど。

それを言って、だから、いまだに「低体温療法は良いんじゃないか」って言ってるけど、基本的な頭部外傷のガイドラインに関して言えば、かなり明白に言えることは、「発熱を避ける」「高体温を避ける」ということだけで、これらがかなり強い推奨になっているだけなんだ。

低体温療法については、頭蓋内圧が亢進してるときに低体温にすると脳圧が下がるということは非常に単純な研究で結果が出てるから、「頭蓋内圧を下げる効果がある」とされているだけ。

その効果は間違いないので、だから頭蓋内圧亢進時に頭蓋内圧を下げる手段の一つとして低体温療法を用いるというのはオプションとしてはある。でも、その効果は予後に影響するかどうかはわかっていない。だから、そこ止まりなのかな・・・。
菊地 脳圧は結構下がるんですか?
坂本 うんまあ、下がるね。
菊地 血流が下がるんですか?
坂本 まあ色々あるけど、代謝を落として血流を落としてっていうことだね。ただ問題は、冷やしてる間は下がるけど復温すれば元に戻るので、蘇生後脳症みたいに24時間冷やしてあとは元に戻せば、何ヶ月後かにアウトカムがよくなるという話じゃない。

「冷やしてる間だけは脳圧が下がってるだけ」っていう話だから。2週間冷やして・・・あんまり長く冷やすと、逆に合併症が起こるから・・・2週間経ってそーと温度戻したらどうなるかって言ったら、やっぱり脳が腫れてくるので、「単に時間を止めているだけじゃないか」という意見もあったりして・・・。
菊地 そうなんですか・・・。
坂本 だけど、まあ一応ある程度限定されたところでオプションとしては使えるけども、広く押し並べて蘇生後脳障害に行うように、もう片っ端から冷やせば100人中何十人のアウトカムがよくなるという良いデータは残念ながら出ていないので、結局、今は「熱を出さない」ということになるわけ・・・・。
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シリーズ 「いのちをつなぐ ひとをつなぐ こころをつなぐ」 の第八回目は、帝京大学の坂本哲也先生にご登場いただきました。
 アウトカム  :予後