AEDを使う心肺蘇生法(CPR)ホームページ
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第8章-我が国の貢献

1) ウツタイン登録

院外心停止における国際的な標準登録システムは、1991年に提言されウツタイン様式として数多くの登録作業に使用されている27。我が国ではいち早く大阪府で登録が開始され、大阪府下の全消防本部と救急病院との協力で1998年からはじまり、現在約4万件を越える世界最大規模のデータベースとなり、貴重なデータを提供している。大阪府28や東京都29のウツタイン様式による院外心停止例の大規模登録の解析から胸骨圧迫のみの心肺蘇生法(CPR)の有用性が実証されたため ”hands-only CPR” としてガイドライン改訂が行われた30

更に総務省により、全国規模で院外心停止の登録が開始され、今後世界に類をみない大規模データとなるものと思われ、すでに自動体外式除細動器(AED)の有用性が実証されつつあり、様々な対策がエビデンスに基づき提唱されるものと期待されている31

図:胸骨圧迫のみのCPRに関するエビデンス発信には、すでに基礎的な検討を実施していたアリゾナ大学(Ewy、Berg、Kern教授)との連携が重要であった。

図:アリゾナ大学との連携 (クリックで拡大)

胸骨圧迫のみのCPRに関するエビデンス発信には、すでに基礎的な検討を実施していたアリゾナ大学(Ewy、Berg、Kern教授)との連携が重要であった。


これは、国際標準的な定義や記録様式に基づきデータ収集をしていることにより、実現されたものである。前述のhands-only CPRは、AHAが2008年3月に「胸部圧迫のみのCPR」、つまり 人工呼吸を全くおこなわないで胸だけを押すCPRを救急法講習会に組み入れよう という指針を発表したものである。この指針は、CPRを中心とした救急法がより普及され、突然人が倒れる、というような緊急時の現場 で少しでも早く応急手当ての手を差し出してもらいたい、他人の口に口をつけて息を吹き込む活動にかなりの抵抗や感染の怖れを感じる人のため。勧告された。このように、我が国からも国際ガイドライン改訂に至るエビデンス発信が可能であり、それにはILCORなどの国際交流が重要である。

2) 我が国における心肺蘇生法

我が国では、1970年代から報告されていたAHAガイドライン等を参考に、関係団体が独自にCPRトレーニング方法を作成し、普及啓発に努めていた。しかし、統一された方法ではなかった。2000年にILCORからの国際的なガイドライン作成の提案を受け、G2000に応じた独自のガイドライン改訂が行われた。日本救急医療財団のなかに心肺蘇生法委員会が設立され、そこで市民へのCPR指導の変更点関して国内関係団体で共通の改訂が実施され、CPRがはじめて標準化された。2005年改訂時には、日本版救急蘇生ガイドライン策定小委員会により、CoSTRに基づき発表された32

更にILCOR加盟を目的に設立されたJRCは、国際的に確立されたCPRを我が国で普及させる目的のため、米国心臓病協会 (American Heart Association、AHA) と Japan International Training Organization (ITO) アメリカ心臓協会日本部会としての契約を締結した。我が国おいてトレーニングコース開催するため、2003年7月にAHAのBLS,ACLSトレーニングセンターの1つであるニュージャージー州のWarren病院へ、日本循環器学会・日本麻酔科学会・日本救急医学会・日本ACLS協会から10名の専門医がJRCから推薦を受け派遣された。

5日間にわたり、BLS (一次救命処置) のプロバイダーコース・インストラクターコース、ACLS (二次救命処置) プロバイダーコース・インストラクターコースを受講し、筆記試験と実技試験、更にはインストラクターとしてのモニターも受け、全員合格して帰国した。

図: 10名の渡米でAHAインストラクター資格を取得した。受講者(プロバイダー)としての実技、筆記試験、指導者(インストラクター)としての実技、指導内容のモニターをBLS、ACLSと5日間で受講した。下段左の中央は筆者が指導している状況で、これをAHAのメンバーがモニターしていた

図:10名の渡米でAHAインストラクター資格を取得した
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受講者(プロバイダー)としての実技、筆記試験、指導者(インストラクター)としての実技、指導内容のモニターをBLS、ACLSと5日間で受講した。下段左の中央は筆者が指導している状況で、これをAHAのメンバーがモニターしていた。


その結果、2003年10月に国内において初のAHA−BLSプロバイダーコース、ACLSプロバイダーコースが東京で開催された。更には、2004年BLS/ACLSインストラクターコースのAHAによるモニターを受け、11名がITO-Facultyとして認められ、AHAの運営マニュアルに即して、その後の我が国におけるAHAトレーニングコースの運営方法や質の確保について検討し、トレーニングを開始した。その当時は、各学会には、トレーニングセンターとして取り組む企画はなかったため、JRCが日本ACLS協会へ業務委託をし、実際のトレーニングを担当し、全国におけるトレーニングサイト設立に至った。現在すでに数万人以上の受講生を数え、各学会の専門医取得時の必修としても検討が始まった。

AHAの提唱する質の高いトレーニングコースは、教育学的にも非常に良くできたもので、これをAHAがガイドラインのみならず、テキストや視聴覚的な教材、指導者用のマニュアルまで作成し、組織的に実践し、医療従事者のみなら一般人までの教育啓発を行っていることは素晴らしいことである。

地域を究極のCCUにするという高邁な理念をあげての活動に理解を示した日本循環器学会においても心肺蘇生法普及委員会が設立され、各地域で地方会にあわせてACLSコースを開催し、理事会の英断でAHAと直接契約を行い、かつ専門医取得の際にAHA-ACLSコース履修を必修化することが決定された(2007年)。最初に、理事・役員が率先してAHA-ACLSコース2日間受講し、専門医必修化と非会員への参画の呼びかけとなった。

図:日本循環器学会のメールニュース理事長はじめ役員のACLSコース受講模様。

図:日本循環器学会のメールニュース
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理事長はじめ役員のACLSコース受講模様。

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