1)循環の確保:心臓マッサージ法
文献上初めて胸骨圧迫心臓マッサージが登場したのは、歯学系の雑誌であった。クロロホルム麻酔が登場し、抜歯などに使用されたため、その時に心肺停止が生じることがまれではなかった。英国医師のジョン・ヒルは、1868年に3例のクロロホルム麻酔後の心肺停止に胸骨を15秒間に3回圧迫し、急激に圧迫を解除時(吸気が生じる)にアンモニアをかがし、救助したと報告した。一方、1874年、Moritz Schiffは、犬の実験で直接心臓をマッサージすることで頸動脈拍動が生じることを示した。その後、Rudolph Boehm とLouis Mickwitzは猫の胸骨圧迫で心臓が圧迫されることを示した。
その成果を受け、1892年フリードリヒ・マース(Friedrich Maass)博士は、同様にクロロホルム麻酔時の心肺停止時に、胸骨圧迫を実施した。120回/分の圧迫回数で効果的であったと報告し、現在につながる胸骨圧迫法を提唱した。しかし、この提唱は約70年間忘れられていた。閉胸式心臓マッサージの有用性はすでに1892年にMaassにより報告されていたが、普及には至っていなかった。1901年にクロロホルム麻酔時の心停止に対して、Kristian Igelsrudが開胸マッサージを行った。
再認識されたのは、米国ジョンホプキンス大学Kowenhoven、Guy Knickerbockerによって1960年に導入された心臓マッサージであった2。彼らは除細動実験を犬で実施していて、たまたまパドルを押しつけると大腿動脈圧が上昇することから、心臓マッサージの効果を検証した。この技術の重要な側面は患者が最小の循環で脳の酸素化が得られるということである。その後、このチームは種々の圧迫部位や方法を確認し、胸骨下部を手掌でまっすぐに圧迫を加えることが最も有効で、合併症が少ないことを確認した。共同研究者のジェームス・ジュード(Jude)は、フローセン麻酔中に心停止となった女性に心臓マッサージを実施し、心拍再開を得て手術に成功した。彼らは20例の経験例をまとめて70%が生存退院したとJAMAに報告した。まさに、忘れられていた胸骨圧迫方法の再発見といえる。1960年はCPRにとって節目の年である。
図:Kownehovenによる胸骨圧迫の図
2)呼吸の確保:口対口呼吸
ジェームズ・エラム(1918-1995)は、呼気が酸素化を維持するのに十分であることを最初に証明した人物である。エラムは、人での実証が必要なため、可能な病院へ移動し手術後の患者に対して、気管チューブから呼気を吹き込み正常な酸素飽和度を維持することを証明した。そして、1956年までに、麻酔科医ピーター・サファー(1924-2003)の協力を得て、ジェームズ・エラムは口対口呼吸による蘇生移しの人工呼吸を開発した。サファーは、ボランティアの許可を得て、気管チューブなしで麻酔されたボランティアの血液O2とCO2を調べ、口対口呼吸により酸素化が得られることを実証した。
これらの実験は、それまでの胸郭伸展方法から口対口換気へ切り替える強力なエビデンスとなった9。1957年には、米国軍隊がこの人工呼吸方法を採用し、翌年American Medical Associationが採択した。サファーは、ウィーン生まれのオーストリア人で、仕事上から皮膚疾患に罹患し、これが幸いして、ナチス親衛隊への入隊が免除されたというエピソードがある。これは我々人類にとって幸運であった。もし彼を失っていたら、現在のCPR方法の進展がなかったといえる。1957年に「蘇生方法のABC」を書き、一般市民に啓発し、誰でも救命処置ができることを説いた。A:airway、B:breathing、C:chest-compression。これにより、それまでの不十分な蘇生法であった胸郭伸展法より口対口呼吸へ移行した。1958年麻酔科集会でサファーはCPRの実演をした。
3)電気的除細動の確立
1850年HoffaとLudwigが実験的に心室細動を認めたが、当時は心停止の原因とは認められなかった。1885年John MacWilliam が心停止の原因が心室細動であることを示した。ジュネーブの生理学者のLouis Prevost とFrederic Battelliは、電気刺激で心室細動が誘発され、高エネルギーで解除できることを示した。そのため誘発と除細動を行うことから、countershockという言葉が用いられた。 ジョンズ・ホプキンス病院の電気エンジニアであったDonald HookerとWilliam Kouwnehovenは、生理学者のWH Howellの指導で電気的な刺激が身体に与える影響を研究し、この先行する研究を1930年に再確認した。Augustus Hoffmanは、1911年に初めて心室細動の心電図記録を行い、LevyとLewisはクロロホルム麻酔時の心停止の原因が心室細動であることを示した。1937年には、Carl Wiggersは、Kouwenhovenの研究を基に除細動器の開発を行った。彼らは、1951年に閉胸式除細動器を開発した。
外科医Claude Beckは術中の心停止に対して、心室細動が生じているが多いことに気づき、1947年に14歳の心停止に対して開胸心臓マッサージと直接心筋への除細動を実施し成功した。閉胸直後に再度心停止となり、再度開胸心臓マッサージを実施しながら、直接電気的除細動を行い心拍再開に成功した。彼は、その後急性心筋梗塞症例の除細動に成功した10。
その後体表面からの電気的除細動にPaul Zollが1955年に4例の患者で成功した11。Bernard Lownが直流除細動を導入し、移動性が増し1960年代に臨床的有用性が明らかになった。Lownは、QRS同期を導入し、Cardioversionにより心房細動の治療に成功した12 。
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