Contents

  1. モダン・ベースボール
  2. 現実のERでは…
  3. 雨ニモマケズ、風ニモマケズ
  4. 「一般市民の、一般市民による、一般市民のための」除細動
  5. Chain of Survivalの最初の3つの輪
  6.  2005年から「AEDを使う心肺蘇生法」の県民運動を開始
  7. 岩手県をイーハトーブへ
  8. (参考文献)

心肺蘇生法の普及について -BLSとAED-

2005年から「AEDを使う心肺蘇生法」の県民運動を開始

2003年4月からメディカルコントロールのもとで救急救命士は自らの判断で除細動できるようになりましたが、その救急救命士は岩手県庁が所在する盛岡広域消防本部には東京都と比べて50分の1(20人)しかいません。高規格救急車は40分の1(5台)、救命救急センターは20分の1(1カ所)しかない状況です(表1)。盛岡広域消防管轄の面積がほぼ東京都と同等で(図6)、まして岩手県の面積がほぼ四国に等しいのに、です。

時間こそが突然心停止の救命の鍵であるというのに、医療圏が広いうえに、救急救命士の人員が少ないなど難点が多すぎるのです11)

ほかの地域でも、同じようなうんざりするほどの格差がおありでしょう。しかし、そんな状況でもどうにかしなければならない、という切実な思いはお互いに同じと思います。今、「地方」の時代へ向かっています。「地方」の地域社会に基づいた視点に移行しています。そこで一地方としての、岩手県での取り組みをお伝えいたしますので、ご参考にしていただければありがたいと思います。

岩手県では、これまで、Chain of Survivalの1番目と2番目の輪である「いわゆる心肺蘇生法」の普及を県民運動として行ってきました。しかし、「オールド・BLS」では不十分でしたので、3番目の輪である「早期除細動」へ繋げることを強力に推し進めています。

早期除細動の推進には、「一般市民による除細動」にすべきと考えていて12)、「AEDを使う心肺蘇生法」の普及とAED設置の充実がその両輪です。達成目標は、当然、使用者になる一般市民への普及と、公共施設や集客施設へのAEDを設置するとともに、心臓突然死の4分の3が生じている各家庭への設置です。自宅にAEDを設置して、地域住民が自ら「AEDを使う心肺蘇生法」を行うことで、難点が多すぎる岩手県であっても、早期除細動を達成することができるのです。

2002年から岩手県内で「モダン・CPR」である「AEDを使う心肺蘇生法」の普及運動を開始しています。地域住民へ普及させる前段階として、住民の最も身近にいる一般医家の先生方に講習を行うとともに、AEDを診療所に1台、病院であれば、各病棟と外来などに1台ずつ設置することを勧めています。医師や医療従事者を対象にした「AEDを使う心肺蘇生法」の講習会を2003年度までに、医師600名ほどと看護師などの医療従事者1200名が受講しました。

これら講習会を通じ、盛岡市医師会長が自ら地域社会への貢献を示すよい機会と率先して導いていただき、2003年3月に岩手県医師会が中心になって約100台を購入し、県内の診療所や病院に150台以上のAEDが設置されました。さらに2003年12月には、岩手県内にある24箇所の県立病院にAED約60台が設置されました13)

2003年からは当院でのAED設置(計20台)を機会に看護師を対象に実技講習会を開始しました。看護師が自らインストラクターとなって院内での普及を行えるようにして、定期的な実技講習会を行い、当院の看護師約900名のうち440名が受講しました。また、これまで毎年、心肺蘇生法実技講習を行っていた医学部1、3、5年生へ、2002年度から「AEDを使う心肺蘇生法」の実技講習を開始しました。

時を同じくして、2002年度から一般市民を対象にした「AEDを使う心肺蘇生法」の講習会も行っています。2003年度までに900名が受講して、実際にAEDトレーナーで除細動を行ったのは600名に上りました。その中には、小学3年生の男児から80歳手前のご夫婦までが含まれています。また、一般市民へ「AEDを使う心肺蘇生法」を広く知ってもらうために、2003年12月と2004年1月の2回、民間地方TV局(めんこいテレビ)でAED普及に関するTV番組を30分間放送しました。

2004年3月には、一般市民向けの「AEDを使う心肺蘇生法」のパンフレット(綴じ込み参照)を2万部作成しています。このうち数百部は日本循環器学会で行われた市民公開講座「AEDを用いた心肺蘇生法」の実技講習会をはじめ、他地域での実技講習会でも用いられました。医療従事者向けの「AEDを使う心肺蘇生法」のパンフレット(綴じ込み参照)も作成しました。

2004年には、岩手県心肺蘇生法普及事業推進会議で「AEDを使う心肺蘇生法」の県民運動を行うことが正式に決定されました。それは、医師会、警察・消防、日本赤十字社、商工会議所、教育委員会、既存の県民運動の協力団体の代表者と県で構成される組織で、1993年から県民運動として心肺蘇生法を普及させてきました(図7)。

これまでの県民運動では、一般住民への普及活動は救急救命士や救急隊員と日赤指導員によるものが大多数を占めていましたので、「AEDを使う心肺蘇生法」でも同様に、救急救命士や救急隊員と日赤指導員が中心となって、他、県医師会員の有志や保健師、自動車学校の心肺蘇生法教育担当官、学校の体育教師、養護教諭などからインストラクターを養成する予定です。

こうして2005年度から県民運動を開始します。前回同様に「各世帯に1人の受講者」を目標にして、これまでと同様の年間4〜5万人の一般市民への普及を見込んでいます。

盛岡では毎夏、「さんさ踊り」が行われ、3日間で30万人が訪れます。県民への啓発の一環として、2004年夏に会場となる沿道約1kmにAED9台とそれぞれにボランティア救護班を配置しました。また、マスメディアを介した県民への啓発は、前回同様、TVでの「AEDを使う心肺蘇生法」普及のコマーシャルを放映することを考えています。AED普及に関する番組も現在、進行中です。

当ページは菊地先生の許可を得て掲載しています。

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