AEDを使う心肺蘇生法 トップ > いのちをつなぐ 目次 > 第六回 瀬尾憲正先生 > その3 「100K運動」の基本的な考えは、「非難のサイクル」から「改善のサイクル」へということ。
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菊地 |
先日、新聞に 「100K運動」 の話題が載ってましたね。高久先生のお名前も載っていましたよ。
先生から力を入れて取り組んでいるっていう話を聞いていたので、「おっ、100K運動が載ってる」 と思って読みました。
この 「100K運動」 ってどういうものなんですか?
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瀬尾 |
100Kっていうのは10万という意味で、この 「100K運動」 はですね、もともとアメリカで始まった運動なんです。
有害事象が、・・・有害事象というのは、患者さんにとって予期せぬことで入院が長くなったりだとか、予期せぬことでそれで亡くなったりということを意味します。
治療にミスがあったか、ミスがなかったか、は全く問わないものなのです。
で、その有害事象によって、その当時のアメリカで1年間に44,000人から98,000人亡くなっている、つまり約10万人が1年間に亡くなっているんだという統計が出てきた。
実は、その前の1999年に 「トゥー・エラー・イズ・ヒューマン (To Err Is Human) 」、日本語訳は 「人は間違える」 という本が出ていて、人は間違えるものだから、「その有害事象が生じる原因をシステムとして捉えよう」 という考え方が広く知られるようになった。
ですけど、2004年に、5年くらい経っても、全然そういう有害事象が減らなかった。
結局、「理論と実践の場にギャップがある。わかってるんだけどもできてないんじゃないか」 という話になって、・・・。
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菊地 |
「システムエラーが原因であるということはわかってるんだけども、実際にはその対策が実践できていなかった」 って言う事ですか?
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瀬尾 |
それは 「結局はどうしたらいいかわからない」 とか、「そのための具体的な対策の仕方がわからない」 ということ。
それでアメリカ安全局と病院協会が協力して、そういうわからない人でもできるようになる、何かハウツーキット、スターターキットみたいなものを用意して、それをインターネットからダウンロードして、それに基づいてやってください、と。
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菊地 |
そのとおりやれば間違えないというキットなんですか?
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瀬尾 |
そう、具体的なマニュアルも入っているし、それから例えばこんなことをして成功したっていう成功体験の紹介があったり、とか。例えば、「ある病院がある目的についてこういう組織を作って具体的にこうやったら助かった、うまくいくようになった」 という紹介とか。
そういうものをインターネットの上にアップロードしておいて、アメリカでは6つの項目をあげて、それ全てに参加しなくてもいいんですが、最低1つくらいは参加してもらってそれを実践するというようにしている。 参加病院が報告しなければいけないことは、実際にその対策をやっているかやってないかということと、もうひとつはですね、月別の退院死亡数を報告すること。
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菊地 |
月別?
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瀬尾 |
そう、月別。
その対策をすることによって、始める前と始めた後で月別の死亡数が減るかどうかということだけを比較したいんです。
参加施設にいろんな報告書を書けとか何とかいうことにすると面倒くさくてやらなくなるから、それはやめて、その病院のその月の死亡退院数だけを報告する。
とりあえず有害事象で亡くなる人数を減らすのが目的ですから、それ以外はもう何も問わない。
だから実際は3項目に参加してる施設もあるし、1項目しか参加してない施設もあるんだけども、とりあえずそこの病院で報告するのは月別の死亡退院数だけ。
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菊地 |
えっ? それだけなんですか?
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瀬尾 |
そう、それだけ。
その2年間の活動で有意に死亡数が減ったと報告された。
それで、それと同じようなものを日本でもやろうと。それが 「日本版100K運動」。
そのきっかけのひとつとなったのは、横浜の患者取り違え事件が1999年に起こって、2010年でちょうど10年になるから、その10年を日本の医療安全の一つの節目として捉えようと考えたこと、その2010年に向かって今から安全運動を起こすことによってどれくらいその効果があるかというのをやろうということになった。
この運動の基本的なコンセプトは、「非難のサイクル」 から 「改善のサイクル」 へということ。
つまり、今までは何か起こった場合には 「あらを探して非難する」 という事をしていたわけ。
「非難のサイクル」 がどんどん進んで、それでは良くならないというのがわかったけれども、それ以外のことができてなかった。
「世界のトヨタ」 が成功した秘訣 「カイゼン:改善のサイクル」 を医療にも取り入れようということで、「何か問題があったら、それをシステム的に改善する」 という方向に持っていこうというのが、この運動なわけです。
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菊地 |
「非難のサイクル」 から 「改善のサイクル」 へ、ですか。いい言葉ですね。
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シリーズ 「いのちをつなぐ ひとをつなぐ こころをつなぐ」 の第六回目は、自治医科大学の瀬尾憲正先生にご登場いただきました。