『救急医療ジャーナル』106(2010年12月号)特別レポート
特別レポートリード文

1.病院到着時に必要な情報を搬送中にリアルタイムで送信

 モバイル・テレメディシン・システムは、救急車内に設置された解析機能付き多機能心電計(12誘導心電図と各種バイタルサイン)と小型カメラで撮影した傷病者のデータを医療機関に伝送し、専門医の指導を仰ぎなら病院選定を行い、早期診断、病院到着後の治療の準備などに役立てるシステムである。従来から行われている心電図のファクシミリ伝送や、携帯電話や消防無線を利用した口頭での情報伝達と異なり、12誘導心電図波形と各種バイタルサイン、車内映像がリアルタイムで医療機関側のパソコンのモニターに表示されるのが特徴で、あたかも救急車に専門医が同乗しているかのような診療を可能にする。

図1 モバイル・テレメディシン・システムのしくみ
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 同システムは、国立循環器病研究センターが中心となって研究・開発を進めてきた。同センターがある吹田市は、「安全で魅力的なまちづくり」を市政目標の一つに挙げ、「健康づくり都市宣言」を行っていることなどから、消防本部が研究・開発に全面的に協力。平成19年に西消防署で実証実験が行われ、平成20年、救急車5台で本格的な運用がスタートした。現在は、7隊ある救急隊すべてにこのシステムが導入され、2医療機関との間でデータをやりとりしている。

 国立循環器病研究センター心臓血管内科部門の野々木宏部門長は、「このシステムにより、12誘導心電図やバイタルサインなど、病院到着時に医師が診断を下すために必要なデータのほとんどを搬送中から得ることができるため、早期診断・治療が可能になります。とくに急性心筋梗塞や脳卒中のように、発症後いかに早く専門的治療を行うかが傷病者の生命や予後を左右する疾患でメリットが大きい」と話す。

 同センターでは、モバイル・テレメディシン・システムによって送られてきたデータをもとに、医師が受け入れの可否を判断し、救急隊員に指示・助言を行い、専門的治療が必要と判断した場合には、救急車の到着前から検査室やカテーテル室を確保し、スタッフを事前招集して体制を整えている。これにより、救急車の到着と同時に、最適な治療が開始されている。

 検証実験では、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)適応症例において、バルーン拡張までの時間が、システムを使用しなかった場合に比べ、約30分短縮できたと報告されている。また、システムを利用した症例(表)で死亡がゼロという結果も出ている。とくに重症の心筋梗塞において死亡例がないのは、特筆すべきことであろう。

表 モバイル・テレメディシン・システムの実施状況

 このほど発表された『JRC(日本版)ガイドライン2010(ドラフト版)』では、「病院前12誘導心電図は、病院に到着する前にST上昇型心筋梗塞患者を判別するのに不可欠であり、患者到着前の心臓カテーテル室の準備とカテーテルチーム招集のためにも利用すべきである」とされたが、吹田市では、同システムの導入によって、すでにこれが実践されているのだ。


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  1. 病院到着時に必要な情報を搬送中にリアルタイムで送信
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