『救急医療ジャーナル』106(2010年12月号)特別レポート

3.視覚情報をプラスした新しいオンラインMCを実現

 開発者の一人である国立循環器病研究センター心臓血管内科部門の横山広行部長は、「吹田市の救急救命士の皆さんは、しっかり勉強していますから、STの上昇など明らかな症状がある場合は、電話による報告でも事は足ります。しかし、心筋梗塞なのか、それとも心不全なのか判断がつきかねるようなときは、やはり我々専門医の出番です。このシステムを使えば、わずかな波形の変化もはっきりと確認でき、専門的治療が必要だと判断した場合は、少し時間がかかったとしても当センターへの搬送を指示しています。そのほうが直近の医療機関へ搬送するより、結果的に治療の開始時間は早くなるのです」と専門医が搬送中から診療に加わる大切さを語り、「患者さんの呼吸の仕方や、こちらから指示して体位を変えたときの反応などを映像で見ることもでき、まるで直接診察しているかのようです」と続ける。

 これに対して、傷病者搬送を担う消防側の吹田市消防本部西消防署救急隊の渡邊正隊長は、「波形を見て、三次(医療機関)か直近の二次か判断に迷ったとき、このシステムを使えば、専門医の指示・助言を得て、搬送先を決めることができて安心です」と、病院選定に際してのシステム活用のメリットについて話す。

 わずかでも三次医療機関搬送の適応の疑いがあれば、結果的にオーバートリアージであったとしても、三次医療機関を選定するのは当然であるが、それが受け入れ困難事例増加の一因になっているのも事実である。一方で、アンダートリアージをして、専門的治療を受けるために転送しなければならない事態になれば、治療の開始が遅れる上、救急隊の活動時間が長くなり、次の出動に支障が出る恐れもある。この点、モバイル・テレメディシン・システムがあれば、専門医と協力して適切な病院選定をすることが可能になる。しかも、その決定は、従来の音声によるオンラインメディカルコントロール(MC)と違い、リアルタイムの画像情報に基づいている。同システムが、“究極のオンラインMC”と言われる所以だ。

 現在、吹田市では、病態に応じて国立循環器病研究センターか大阪府済生会千里病院千里救命救急センターかを選定してデータを送信しているが、将来的には、複数の医療機関や消防指令センターなどともネットワークを構築して情報の共有化を図る構想もある(図2)。

図2 モバイル・テレメディシン・システムの将来図

 「複数の病院がリアルタイムで情報を閲覧できれば、個別に受け入れ要請を行う必要がなくなるので、救急隊の負担が軽くなります。それぞれの病院の受け入れ状況もわかり、いわゆる“たらい回し”も起きにくくなるでしょう。また、医師同士で治療方針を検討したり、かかりつけ医が病歴や投薬などの追加情報を提供することも可能になり、さらなる救命率の向上が期待できます」(横山部長)。


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  1. 病院到着時に必要な情報を搬送中にリアルタイムで送信
  2. 実用化を加速させた揺れや体動に強い心電計の登場
  3. 視覚情報をプラスした新しいオンラインMCを実現
  4. 利用シーンの拡大が救急救命士の可能性を広げる