『救急医療ジャーナル』106(2010年12月号)特別レポート

4.利用シーンの拡大が救急救命士の可能性を広げる

 本年6月より同システムの運用に加わった大阪府済生会千里病院千里救命救急センターの甲斐達朗センター長は、「私は、モバイル・テレメディシン・システムの動画情報が得られる点を評価しています。当センターは外傷患者を受け入れることが多いので、画像情報により出血の状態などを確認できるのはありがたい。また、画像情報は、交通事故などで多数傷病者が発生したときに、現場状況の把握やトリアージなどにも効果的だと思われます。今後、消防指令センターや複数の医療機関ともネットワークが出来上がれば、災害時にも活用できるでしょう。そのため、車外の映像も撮影可能になるように、車内に固定されているカメラを携帯できるようにするか、車外にもカメラを設置してはどうかと提案しています」と語り、「同システムはオンラインMCの新しいスタイルであり、今後、多くの症例で実績を示すことができれば、救急救命士の活動範囲の拡大にもつながるのではないでしょうか」と、期待を込める。

 横山部長も、「救急隊は現場で本当に困難な活動を余儀なくされています。このシステムを有効に活用すれば、現場と医療機関の情報距離が縮まり、救急隊による処置の幅も広がってくるでしょう」と語る。

 このシステムの導入については、予算がネックになるかもしれないが、吹田市消防本部警防指令室救急救助課の前部晴奈課長代理は、「心電計は、もともと救急車に装備されているもの。更新の際に機種を変更すると考えれば、交渉の余地が出てくるはずですし、このシステムが普及すれば、価格が下がることも期待できます。我々も一気に全救急隊に搭載できたわけではありません。救急隊のみならず、何より市民の役に立つシステムですから、ほかの消防でも導入の方策を工夫してほしいですね」と話す。

 野々木部門長は、「モバイル・テレメディシン・システムは、吹田市でしかできない特殊なものではありません。我々は当初から、医療情報システムの標準化を目指し、できるだけ汎用性のある既存の機材やソフトを利用しています。全国どこでも使えるシステムなら、たとえば、一地域で患者受け入れが完結できなくても、県内、さらには県外へと広げて収容施設を探したり、北海道の症例に我々がアドバイスしたりすることも可能になります。ただし、全国的な規模でシステムを運用するには、行政の枠を越えなければなりません。他の行政の理解を得るためにも、吹田市でしっかりしたモデルを確立し、有効なシステムであることを証明していきたい」と語る。

 モバイル・テレメディシン・システムの今後の展開に期待したい。


(『救急医療ジャーナル』 第106号より転載)


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  1. 病院到着時に必要な情報を搬送中にリアルタイムで送信
  2. 実用化を加速させた揺れや体動に強い心電計の登場
  3. 視覚情報をプラスした新しいオンラインMCを実現
  4. 利用シーンの拡大が救急救命士の可能性を広げる