2007年8月25日@秋田市 第4回明徳循環器カンファレンス 獨協医科大学 心血管・肺内科 講師 菊地 研 “Push hard, push fast.” これが、2005年末にアメリカ心臓協会(AHA)で改訂された「心肺蘇生(CPR)と救急心血管治療(ECC)のためのガイドライン(G2005)」の象徴です。効果的な胸骨圧迫心臓マッサージを強調しています。 (1) 「push hard, push fast (強く、かつ速く圧迫する)」 (速さは100回/分)、 2000年の国際ガイドラインでは、とりわけ、早期除細動が救命の決定的要因とされました。目撃された心停止で最も多い初期リズムは心室細動(VF)で、その唯一の治療である電気的除細動が1分遅れるごとに救命の可能性は7 - 10%急速に低下します。早期除細動は、その場に居合わせた一般市民が除細動を行うことで可能になります。2004年7月以降、日本の一般市民も自動体外式除細動器 (AED) を用いて除細動を行えることになり、AEDが公共施設や集客施設に設置されるようになりました。これにより尊い命を救命できたとの報道がいくつかされてきました。 AED設置が増えることで、次々と救命されて社会復帰できるようになっていくと期待されました。AEDの登場を境に、CPRの重要度は低下するであろうと予測した者もいました。ところが、シアトルでAED配備が進んでいったにもかかわらず、予想外にも院外VF例の救命率が低下してきていることが報告され、AEDのみでは不十分であることが明らかとなりました。CPRが重要視されなくなったことが、この救命率の低下の原因であると考察されました。しかも、この考察を支持する研究結果が集まってきたのです。 このため、G2005は 「早期かつ良質なCPR」 が最も重要となります。上記(1) - (4) の効果的な胸骨圧迫心臓マッサージの強調のほか、心臓マッサージと人工呼吸の回数の比は30:2に、人工呼吸は1秒に変更されました。胸骨圧迫の1 分あたりの回数を増やし、その中断を最小限にしています。一般市民が誰でもできるようにするため、CPRは単純化・簡略化されました。電気的除細動も、これまでの3連続から1回へ変更されました。CPRを重視したうえで、除細動のタイミングや除細動波形とエネルギー量の組み合わせを最適化させました。VFによる心停止では、1回ショックをかけた後、ただちに胸骨圧迫から始まるCPRを再開することになります。ショック後にリズムや脈拍を再確認せずに、5サイクルまたは約2分間のCPRを行います。ACLSでさえも、気管挿管や血管確保のような処置による胸骨圧迫の中断を最小限にとどめるようにデザインされました。迅速で良質なCPRが心停止からの救命率を上昇させます。G2005の“Back to the basics”という言葉に集約されるように、CPRの基本に立ち返る必要があります。 循環器医は、これまで致命率の高かった急性心筋梗塞症へ挑んできました。カテーテル治療による再灌流療法を含めたCCUでの治療で、院内致命率を5%まで低下させ、地域社会へ多大な貢献をしてきました。引き続き、地域社会に救命の連鎖 (Chain of Survival) を確立させ、「地域社会そのものを究極のCCU」 に構築したいのです。日本循環器学会は、循環器医がその先導を担うことを目標に掲げています。このとき、AHAがこれまでに築き上げてきたECCプログラムが有用です。このトレーニングプログラムは、2003年から日本蘇生協議会 (JRC) により国内でも実施できるようになり、日本ACLS協会が担って、国内のトレーニングコースを定期的に開催してきました。2007年から日本循環器学会もこれを推進していきます。 循環器医を含む医師も、医療従事者も、一般市民も、みんなが手を携えて 「救命の連鎖」 を繋ぐことができれば、かけがえのない命を救うことができます。まさに地域住民の 「いのち」 は、あなたの 「こころ」 と 「手」 に委ねられているのです。 |