救急と蘇生に関するガイドライン(CoSTRとJRCガイドライン)改訂のポイント


2010年10月

国立循環器病研究センター 心臓血管内科  野々木 宏


今年は、心肺蘇生法(CPR)が確立されてから50周年の記念の年です。1960年に現在のCPRすなわち口対口(マウスツーマウス)の人工呼吸、胸骨心臓マッサージ、電気的除細動の3つが揃った年です。その後にいち早くガイドラインを作成して市民教育に取り組んだのが米国心臓協会(AHA)です。AHAは1974年にCPRに関するガイドライン作成を行い、以後6年ごとに改訂をしてきました。その後、AHAが中心となり国際蘇生連絡委員会(ILCOR)が結成され、2000年の国際ガイドライン発表につながりました。我が国では、このガイドラインに応じてCPRの統一をはかるため日本救急医療財団に心肺蘇生法委員会ができ、またILCOR加盟に向けて日本蘇生協議会(JRC)を結成するなどCPRの普及啓発活動が進み出しました。2006年には、アジア蘇生協議会として我が国のILCOR 加盟が実現しました。

国際的なガイドラインは、世界におけるCPRの標準化を目指したもので、その特徴は、大規模試験による evidence に基づき勧告の優先度が決定されたこと、自動体外式除細動器(AED)の実施をはじめとする市民の積極的な関与が謳われていることが特徴です。5年ごとに改訂され、2005年にはガイドラインからコンセンサス「心肺蘇生と救急心血管治療のための科学と治療の推奨に関わる国際コンセンサス(CoSTR)」と名称を変えて、これに基づき各国のガイドライン作成を促しました。2010年のCoSTRの作成には、29か国から蘇生に関する専門家356名が結集し、3年にわたり関連する論文の評価を繰り返し、それぞれの分野別に作業部会を構築し、コンセンサスが作成されました。この作業はガイドライン作成のお手本とも言えるもので、我が国から20名以上の専門家が参加し、大きな成果が得られました。作業として1つのトピックスに2名の担当者があてられ、277のトピックスに数万件以上の論文がレビューされ、科学的に信頼性が高いものが選出され、411のワークシートが作成されました。

最終のコンセンサス決定会議が2010年2月にダラスで開催され1週間かけて、全てのトピックスに対してエビデンス内容の最終分析が行われ、それぞれのトピックスに関する科学的な勧告が確定されました。得られたコンセンサスは、2010年10月にオンラインで Circulation 誌と Resuscitation 誌に発表されました。CoSTRは、ILCOR加盟各国や地域に対して事前に守秘義務のもとに配布され、半年間でガイドライン作成を行い、CoSTR発表と同時に米国(AHA)、欧州(ERC)、更に我が国からJRC版が発表されました。

JRCガイドラインは、我が国からILCORのCoSTR作成者を中心として、JRCと日本救急医療財団日本版ガイドライン策定小委員会がガイドライン作成合同委員会を構築し、我が国の叡智を集めて作成されました。

CoSTRの公開にともない、JRC(日本版)ガイドラインも公表が可能となりホームページにドラフト版が掲載されました:


>> 日本蘇生協議会 http://jrc.umin.ac.jp/

>> 日本救急医療財団 http://www.qqzaidan.jp/


今回のガイドラインにおける主な改定ポイントは下記になります。


  • 救命の連鎖において最初のリングを「心停止の予防」とした。
  • 質の高い胸骨圧迫が心肺蘇生でもっとも重要であることは従来通りとした。
  • 反応がみられず、呼吸をしていない傷病者には、まず胸骨圧迫から心肺蘇生を開始することにした。
  • 可能であれば胸骨圧迫に人工呼吸を加えるが、できない場合は胸骨圧迫のみを行うことをこれまで以上に強調した。
  • 従来の標準的な講習に加えて、内容を胸骨圧迫にしぼった短時間の講習を用意することにより市民の受講機会を増やすことを目指した。
  • 二次救命処置の内、主に医療機関において行う部分については、低体温療法など蘇生後の集中治療に焦点をあてた。
  • 急性冠症候群について病院前救護体制と医療システムの連携を強化することにより発症から再灌流までの時間を短縮すべきであることを強調した。
  • 脳卒中をはじめとするさまざまな脳の緊急事態からの蘇生を推進するために「神経蘇生」の章を新たに設けた。

市民による救命率を更に向上させるために、より理解しやすい効果的なCPRに変更されたことと、救命後の専門的治療への介入にも焦点があてられました。

当ページは野々木先生の許可を得て掲載しています。

 

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