国立循環器病センター 心臓血管内科 野々木 宏 はじめに 致死性心室性不整脈に対する治療手段は進歩し、カテーテルアブレーション、薬物治療、植え込み型除細動器などの導入により、予後の改善が得られつつある。しかし、それらは幸い生存入院し得た症例が対象であり、院外において重症化するなどの致命的な出来事が少なくなく、院外死を含めると致命率はなお高い。その救命には、救命の連鎖と呼ばれる応急処置が重要となり、迅速な通報、迅速な心肺蘇生法の実施、迅速な電気的除細動、迅速な専門的治療の4つの救命の鎖が時間の遅れなく機能する必要がある。本稿では、院外心停止、特に心室細動の実態とその救命対策について言及したい。 1.循環器救急医療のフォーカスは院外へ 図1 CCUでの院内死亡率の変遷 しかし、地域発症状況の全国調査では致命率は約20%と高率で、死亡の半数は院外死であることが明らかになった(図2)。 図2 急性心筋梗塞症の致命率 循環器病委託研究班11公―6より これは米国でも同様であり、急性心筋梗塞症救命対策のフォーカスは院外にあるといえる(図3)。院外心停止の救命対策には、AHAが提唱している救命の連鎖の確立が重要であり、迅速な通報、CPR、電気的除細動(AED)、専門的治療が時間の遅れなく適用できることである。そのためには、ガイドラインによる勧告が標準的となり、非医療従事者と医療従事者が連携して救命につとめることが重要である。 図3 米国における急性心筋梗塞症死 2.院外心停止の現状把握 図4 院外心停止登録の国際基準:ウツタイン様式 ウツタイン様式による心停止とは「脈拍が触知できない、反応がない、無呼吸で確認される心臓の機械的な活動の停止」と定義され、心原性と推測できるものと非心原性に分けられ、原因が不明な場合には除外診断に基づき心原性と扱われている。この場合には、心停止が予期せぬか否かは問題ではなく、救命の対象となることが重要である。 ウツタイン様式の適用のメリットは、国際比較が可能となること、経年変化がわかることがあげられる。図5は大阪府における院外心停止のうち心原性で目撃のある初期調律が心室細動であった例の救命率と脳蘇生良好(社会復帰)な率の経年的で、年々改善を示している。この要因は市民のCPR実施率の増加と通報から除細動実施までの時間短縮である。 図5大阪府の院外心停止推移 大阪ウツタインプロジェクト、J-PULSE研究 問題点は、院外心停止のうち心室細動率は約20%と低率であることである。この原因は、心停止から心電図記録までの時間が3分以内の場合には50−60%と高率に心室細動が観察されるという東京都の長尾ら、仙台市の渡辺らの報告から考えると、記録までの時間が長いこと、市民のCPR率が低いことが大きな因子であると考えられる。心停止後、心室細動の維持には、発見者によるCPR(これは標準的なCPRでも胸骨圧迫のみでも同様の効果が期待できる)が有効である。したがって、今後の対策は、AEDの普及と市民によるCPR、特に胸骨圧迫実施率をあげることであるといえる。 3.院外心停止に対する対策 図6 ガイドライン改訂の経緯 AHAの勧告を受けて我が国においてもAHAによる国際トレーニング組織の設立契約が2003年に締結され、関連組織から10名の代表者が米国でインストラクターコースを受講し、その後全国的にコース開催が可能となった(図7)。 図7我が国におけるAHAトレーニングコース 4.2005年ガイドライン改訂 1)BLSの重要性 2)心臓マッサージの重要性 図8 胸骨圧迫時の大動脈圧と右房圧(豚の心停止モデル)と 胸骨圧迫と人工呼吸比率30:2の勧告 AoS:大動脈収縮期圧、AoD:大動脈拡張期圧、RAD:右房拡張期圧 (Ewy GA: Circulation 2005;111:2134-2142から引用) 心臓マッサージの質変えたCPR後に除細動を実施し、質の高いCPRを実施した生存例での冠灌流圧が平均で25mmHg以上であることが示され、いかに心臓マッサージの質の確保が重要であるかを明確にした報告である。また、心臓マッサージと心臓マッサージの間に、十分胸郭を拡張(リコイル)させることで、静脈還流を維持させることの重要性が強調された。この重要性も動物実験で示された。 リコイルが不十分な場合には胸腔内圧が上昇し静脈還流が減少するため、冠灌流圧や脳灌流圧が減少する。したがって、心臓マッサージは強く圧迫するとともに、次にはバネの拡張(リコイル)のように十分胸郭を拡張させ、静脈還流を維持する必要がある。冠灌流と脳灌流を維持するためには、胸骨圧迫の回数を確保する必要がある。30回の胸骨圧迫と2回呼吸で、心マの回数は現在より多く得られ、呼吸は1回減るのみであり、有効な冠灌流が得られることが示された。 3)過換気は致命的である 4)電気的除細動1回で即座にCPRを実施 図9 除細動直後に2分間CPRの勧告 その場合、1回目目のショックで除細動することが重要とされ、2相性AEDの使用により初回のショックにより85%以上除細動されることから2相性の使用が勧告された。1相性を使用する場合には初回のエネルギーを360Jと最大にすることが勧告された。これは、手動式除細動器においても同様に1回毎の除細動とCPRが勧告されているため、救急の現場でのコンセンサスを作る必要がある。基本は、心臓マッサージの中断時間を短くすることである。 5)除細動が先か、CPRが先か 10分以後はmetabolic-phaseで全身の虚血再灌流障害が生じるため、低体温等の臓器保護が必要となる時期である。院外心停止は、通報から除細動までに5分以上かかることが多いため、救急現場ではCPRを3分間施行してから除細動する方が、除細動を先行するより心拍再開率が高いことが示された。救急隊が通報から現場到着までに5分以上かかる地域では、メディカルコントロールによりCPRを先行するプロトコールを選択しても良いと考えられる。 6)ACLSにおける変更点 また、プレホスピタルにおける急性冠症候群の治療、特に血栓溶解療法の適用やアスピリン使用、また脳卒中診療における脳卒中ユニット(SCU)での管理が勧告され、現場でのトリアージが重要とされた。今後ますます専門施設の選定が重要となり、地域メディカルコントロールでのネットワーク形成が必須であると考えられる。 7)蘇生後の安定化 以上のように、今回の国際ガイドライン改訂の基本は、心臓マッサージの中断を短くすることと迅速な除細動の適用である。これは、非医療従事者のみならずACLSを実施する医療従事者においても共通であり、『Back to Basic』という基本を忘れないことが救命率を向上させるポイントである。 |