シンポジウム「医療安全とシミュレーション」

医療安全とBLS/ACLS トレーニング

獨協医科大学 心臓・血管内科 准教授 菊地 研
(日本循環器学会 循環器救急医療委員会/蘇生教育小委員会)


 

「医療安全」を推進するとともに、医療従事者は緊急事態にも備えておくべきである。突然の心停止は病院内であってもゼロにできないため、その緊急事態に備えてBLS/ACLS(一次および二次救命処置)を修得 しておくことが必須である。

しかしながら、蘇生に関する知識や技能を修得した医療従事者が1人だけでなく複数揃ったとしても、充分ではない。蘇生処置では同時進行で多くの手技を行うことになるため、F1レースのピットで10 名以上 が役割分担して数秒で整備を仕上げることに例えられたりするが、それ以上にチームワークが重要になる。

専門知識や専門技能の熟達に加えて、有効なコミュニケーションとチームワークが重要になる。有効なコミュ ニケーションはエラーを最小限にし、良好なチームワークは蘇生の質を確保してくれるため、そのようなチームで行う蘇生は救命の可能性が高くなる。このため、チームで行うシミュレーションでのBLS/ACLS トレー ニングが重要になる。

当院では、看護師(一般病棟同フロア全24 名)がシミュレーションでのトレーニングでBLS/ACLS を習得することにより、トレーニング前の病院全体の心停止例と比較してその病棟内で生じた心停止例の転帰を改善させることができた。これまでも通常のBLS 練習は行っており、この病棟ではAEDの要請までと胸骨圧迫の開始までに要する時間はもともと短縮されていた。それにもかかわらず、BLS/ACLSトレーニング後に救命率が改善したことは、改めて専門知識や専門技能の熟達に加えて、有効なコミュニケーションと良好なチームワークが重要であることを示している。

この有効なコミュニケーションと良好なチームワークは、次に何をすべきかとの手順だけでなく、チーム全体としてどのようにコミュニケーションをとり行動すべきかを理解することであり、まさに「医療安全」での最重要事項である。このため、BLS/ACLS トレーニングは「緊急事態への備え」であると同時に、「医療安全」
の推進に重要である。


AEDを使う心肺蘇生法 ホームページに戻る