産業医に必要な心肺蘇生法の重要点と実際

獨協医科大学 心臓・血管内科 准教授 菊地 研
(日本循環器学会 循環器救急医療委員会/蘇生教育小委員会)


 

日本では、15分に1人が突然の心停止で亡くなっています。しかし、その場に居合わせた市民と駆けつけた医療従事者がすばやく適切に心肺蘇生法(CPR)を行えれば、生存の可能性を高めることができます。

そのCPRは、最も重要で最も簡単な胸骨圧迫から開始します。これまで「A-B-C」としてAirway(気道確保)→Breathing(人工呼吸)→Compressions(胸骨圧迫)が50年間行われてきましたが、2010年に改訂した「心肺蘇生と緊急心血管治療のためのガイドライン」では「C-A-B」が新たに推奨されました。この「C-A-B」手順によりCompressions(胸骨圧迫)→Airway(気道確保)→Breathing(人工呼吸)となり、胸骨圧迫から開始することになりました。心停止を認識してから 10 秒以内に胸骨圧迫を開始して、胸骨圧迫 30 回と人工呼吸2回を繰り返します。前回のガイドラインより引き続き「質の高い CPR」 は強調され、変更点も含めたその重要項目には下記があります。

  • CPRは「C-A-B」に
  • 心停止を認識してから 10 秒以内に胸骨圧迫を開始
  • 胸骨圧迫の深さは少なくとも5 cm
  • 胸骨圧迫のテンポは少なくとも100/分
  • 圧迫ごとに胸壁を元の高さまで戻す
  • 胸骨圧迫の中断は最小限に(10秒以内)
  • 過換気を避ける

さらに、「質の高い CPR」 を強化するために、医療従事者にはチームアプローチを用いたCPRの重要性を強調しています。医療従事者が行う一次救命処置(BLS)アルゴリズムは、これまで救助者が1人のときに行う処置を優先順位付けされた手順として提供してきましたが、ほとんどの医療システムでは複数の救助者により複数の処置を同時に行うことができるようになっています。例えば、1 人目の救助者が救急対応システムへ要請する間に、2 人目の救助者が胸骨圧迫を開始し、3 人目の救助者はバッグマスクを取ってきて人工換気を行い、4 人目の救助者はAEDを取ってきてセットアップします。このようにチームとしてCPR を行うことを強調しています。引き続いて行われる二次救命処置(ACLS)アルゴリズムでは、従来通りチームアプローチを用いた「質の高いCPR」を統合することを強調しています。CPRの個々のスキルのほか、チームとしての CPR スキルを習得する必要があり、そのBLS/ACLSトレーニングコースも各地で提供されています(http://www.j-circ.or.jp/information/acls/acls.htm)。

一方、その場に居合わせた市民はCPRを行うべきですが、実は、職場、公共の場、さらには自宅で心停止を起こした人のうち、CPRをしてもらえた人は、残念なことに1/3に満たないのです。その場に居合わせた市民の多くは、パニックに陥り何もできない状態になっていたり、倒れた人に何かを行うことで状態を悪化させたり、自分に危害が及ぶのではないかと心配したりしていました。倒れた人の口に自分の口を接触させる「マウス・トゥ・マウス」人工呼吸に抵抗感を持ったり、上手く人工呼吸できないのではないかと不安を感じたりしてCPR自体を躊躇していました。

その点も踏まえて変更された「胸骨圧迫から開始する」手順と、従来から推奨している「胸骨圧迫のみのCPR(ハンズオンリーCPR)」により、その場に居合わせた市民がCPRを行いやすくなるようそれら「障壁」をできるだけ取り除きました。さらにCPRトレーニングを受けていない市民救助者には救急指令員がハンズオンリーCPRを口頭指導することが推奨されました。CPRトレーニングを積んだ市民救助者なら、状況に応じて、胸骨圧迫と人工呼吸の組み合わせを30:2の比で行うCPRか、ハンズオンリーCPRのいずれかを行いますが、CPRトレーニングを受けていない市民にはハンズオンリーCPRを行ってもらうのです。AEDが到着して使える状態になるまで、もしくは救急隊が到着して引き継ぐまでCPRを継続します。

  • 救急指令員による死戦期呼吸の識別とCPRの指示
  • CPRトレーニングを受けていない市民救助者はハンズオンリーCPRを

産業医の皆さんには、医療従事者として自らCPRを実施すべき役割とともに職場内にCPRを啓発・指導していく役割を担っておられると思います。その場に居合わせた人によるCPRを増加させて、より多くの命を救うことを究極の目標としていますので、是非とも職場に勤務される皆さんにCPRの啓発・指導をしていただけるようご協力をお願いいたします。


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