ガイドライン2010で胸骨圧迫のみのCPRは・・・

獨協医科大学 心臓・血管内科 菊地 研
2010年8月


 

胸骨圧迫のみのCPRは簡便で実施しやすく、躊躇なく行えるという利点から、多くの市民が行えることでバイスタンダーCPR率を増加させることができます。CPRの「量」を増やすことができます。そのうえ胸骨圧迫のみのCPRは人工呼吸併用CPRと同等またはそれ以上の効果が得られると日本からの報告が相次ぎ、「質」の点でも注目を浴びているのです。

こうした成果に基づいて、2008年5月アメリカ心臓協会(AHA)は市民へ向けて胸骨圧迫のみのCPR 「Hands-only CPR(ハンズ・オンリー CPR)」 を推奨しました。国際コンセンサス(CoSTR) 2010でも、成人に対して一般市民が行うCPRで胸骨圧迫のみのCPRは、さらに強く勧告されるのではないかと期待されています。ただし、胸骨圧迫のみのCPRを支持している研究が無作為比較研究でなく観察研究であること、その観察期間の多くが「15:2」の期間で「30:2」の期間のデータが不足していることが指摘され、エビデンスが十分でないと判断されています。その有用性を無作為比較研究で検討するのは難しく、胸骨圧迫のみのCPRの長期成績が待ち望まれていました。

そんな中、7月に胸骨圧迫のみのCPRと人工呼吸併用CPRとを比較した多施設共同無作為比較研究が2つ同時に報告されました。救急通報を受けた通信指令員が無作為に、居合わせた人へ胸骨圧迫のみを行うよう指示した場合と胸骨圧迫と人工呼吸を行うよう指示した場合にどちらが有効かを検討した結果、アメリカのシアトルを中心にした研究では、生存退院率および神経学的転帰良好の生存例の割合は同等でした(図)。サブグループ解析では、胸骨圧迫のみのCPR群で心原性心停止例および除細動適応例で生存退院率が高い傾向にありました。同様に、スウェーデンからの研究でも30日生存率が同等でありました。

この結果は「15:2」との比較ながら、市民には胸骨圧迫のみのCPRをさらに推奨することになると思います。市民が「質」も「量」も揃ったCPRを現場から開始することで、「早期のCPR」が達成できるようになります。


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