心肺蘇生法ガイドライン2005年改訂の背景


国立循環器病センター 心臓血管内科  野々木 宏


今回の改訂のポイントは、心肺蘇生法の基本すなわち胸骨圧迫(心臓マッサージ)の重要性に焦点が当てられていることである。そのポイントを中心に主な改訂点を解説する。

1)循環のサインは不要
循環のサイン(息、咳、動き)を確認することの根拠が乏しいため、今回のガイドラインでは勧告されないことになった。したがって、意識が無く正常な呼吸がなければ、生命の徴候がないと判断し人工呼吸と心臓マッサージを開始することとなった。医療従事者の場合には、2回の人工呼吸後に頸動脈を10秒以内で触知し、触れなければ心臓マッサージを行うことが勧告された。これにより心臓マッサージ開始までの時間が短縮されることになる。

2)心臓マッサージの中断時間
呼吸や状況の確認のため心臓マッサージを中断せざるを得ないが、10秒以上中断すると心拍再開しにくくなり、予後不良につながるという報告が数多くなされた。そのため中断を短くする工夫や勧告が随所にみられる。例えば、呼吸は1回2秒から1秒に短縮され、2回の人工呼吸や脈拍触知は10秒以内に終了し、直ちに心臓マッサージを開始することが勧告されている。

3)リコイルの重要性
心臓マッサージと心臓マッサージの間に、十分胸郭を拡張(リコイル)させることで、全身の静脈から血液が心臓へ還流し、心臓マッサージにより有効な心拍出が得られることが明らかにされた。したがって、心臓マッサージ後には、胸郭が拡がるのを妨げないことに留意する必要がある。

4)心臓マッサージと呼吸比率は30:2へ
心肺蘇生時に重要なことは、心筋への灌流と脳の灌流を維持することであり、そのため心臓マッサージの回数を確保する必要がある。これまでの15回より30回の心臓マッサージを続ける方が、灌流が良好であり、30回と2回呼吸により1分間の心臓マッサージの回数は現在より多く得られ、呼吸は1回減るのみであり、有効な心筋灌流が得られることが示された。また、心臓マッサージの速さは、80回/分より遅くなると心拍再開が得られにくくなることが示され、前回と同様に100回/分が勧告された。

5)過換気への注意勧告
呼吸に関しては、過換気のリスクが示され、毎分30回以上の補助換気をすると胸腔内圧が上昇し、ほとんど静脈還流が消失し、致命的であることが示された。したがって、今回のガイドライン改訂では、2000年より更に呼吸の勧告回数が減少している。具体的には、人工呼吸を成人では10−12回(5−6秒に1回)、小児・乳児では12−20回(3―5秒に1回)、いずれも胸郭が上がる程度に1秒かけて換気を行う、ことです。

6)電気的除細動時のCPR
AEDを3回連続で使用する場合に、1分以上心臓マッサージが中断され、むしろ心拍再開が悪くなることが指摘され、1回除細動したら直ちに30:2のCPRを5サイクル(約2分間)実施することが勧告された。更に、初回に除細動に成功することが重要であるため、2相性AEDの使用あるいは1相性の場合には初回のエネルギーを最大の360Jにすることが勧告された。


今回のガイドライン改訂は、“Back to Basic”で、基本に忠実に、質の高い心肺蘇生法、特に胸骨圧迫心臓マッサージの重要性が強調されています。

当ページは野々木先生の許可を得て掲載しています。

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